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対面

いよいよ!いよいよ!

Bさんがドアをノックして開けた。
中に入り、

「電話で話した者です。
이 *용さんはいらっしゃいますか?」

「この人だ」

私は恐る恐る、中に一歩入る。

その場には数人のアジョシたち。
全員の視線が私に向けられる。

敵意とも好意とも、わからない。

言葉がでない。

「안녕하세요…」小さな声でいい頭を下げた。

応接セットの向かい側に座る男性。
(この方だ)言われなくてもわかった。

アジョシたちがソファをすすめてくれる。

テーブルには新聞紙が広げられ
よく見るエゴマの葉の缶詰
ポンテギ(カイコ)の缶詰
青い唐辛子(生)とヤンニョン
そして、マッコリ。

どうやら宴会をしていたようだ。

向かい側に座ると
マジマジと私を見ている。
私も見る。

Bさんが説明する。
私が日本から来たこと。
おじいさんが75年前に亡くなり韓国のことが何もわからなかったこと。
おじいさんの戸籍をもとに、親戚を探していること。
それは先祖のお墓参りをしたいから。

目の前の이さんは、大きな声で何か言っている。
慶尚道独特の強い語調と年配の方の強い語調とで
かなり荒々しい。

「怒ってはるんでしょうか?」

そう聞いてしまうほどだった。
このまま、追い返されそうだ。

どうやら、酔っ払っているみたいだ。(見たらわかるが笑)

周りの優しそうなアジョシがコーヒー(例のミルクコーヒー)を入れてくれた。

「酔っ払ってるだけだからね」
アジョシの言葉は理解できた。

Bさんが捲し立てるように説明を続ける。
私には言い争っているようにしか見えない(笑)

이さんがポツポツと話す。

「チャグアボジ(父の弟)は日本で自動車関係の仕事をしていると聞いた。」

そーです!そーです!
ヨコハマタイヤの代理店をしてました。

「その会社は今もあるのか?」

祖父が亡くなって、会社も無くなりました。

また何やら強い語調で話している。
私はちょっとイラッとしてきた。
(怒っているならもうこのまま帰ろうか)

そう思っていたら、

「お前の祖父の名前は?」と聞かれた。

「이 만군!」と答えると

手を差し出してきた。
私も手を出した。

私の手を強く握り、一瞬泣きそうになる이さん

「내 조카다‼️」(私の姪っ子だ)

そう言ってくれた。
周りのアジョシも

「そうだよ!お前の姪っ子だよ!
 日本から来てくれたんだよ。」

이さんはベロンベロンに酔っ払ってるが、周りのアジョシたちは割と冷静で、私が出した戸籍などを見て確認していた。

そして、私の祖父と이さんのお父さんの並ぶ戸籍を見て
이さんに説明していた。

「隣に座りなさい」そう言われて、이さんの隣にいき、握手をした。

私は本当に会えたんだ…
という感動と、いろいろな感情が溢れてきて思わず泣いてしまった。

並んだ私と이さんを見てアジョシが
「ふたり、顔が似てるよ^ ^」と言った。

私もなんとなく、そう思う。
他人とは思えない、とはこのことだ。本当に他人ではないし。

이さんは、
「今日は酔っ払っているから、明日改めて来てほしい。」と言われた。

Bさんが
「明日はこの人にも予定があるし、私だって仕事があるんですよ。」

そう言ったが、「明日また来てくれ」の一点ばり。

またBさんと何やら言い争っていた(私にはそうにしか見えない)

とりあえず、その場は帰ることになり外へ出た。

どうなったのかさっぱりわからない。

「今日は酔っ払ってるから明日の朝来てほしい、て言われたけど明日は僕も仕事があるので、電話して夕方に行けるようにします。だから夕方から時間をあけといてください」

翌日は朝から蔚山に行く予定だった。
でも仕方ない。
こんな機会はもうないかもしれない。

それにしても、
この日ほど、韓国語の勉強をテキトーにしてきたことを後悔した日はない。

おじさんの言っていることは、なんとなくわかる。

知っている単語を拾い集めて、大体のニュアンスはわかる。

問題はこちらの思いを伝えれない。
ここまで来た思いを伝えれない。

もどかしかった。

その日の夜。
部屋に戻り、日本に連絡。

「ベロベロに酔っ払ってて、わからんかった。」

用意した写真を見せるタイミングもなかった。
ただ、私がチャグアボジの孫だと信じてくれたと思う。

明日、会えたら聞きたいことをまとめようと思うものの
まとまらなかった。

翌日の蔚山の友達が快く予定の変更を承諾してくれたので
とりあえず、明日は蔚山へ行きおじさんに会うために帰ってくることにしよう。


Aさんから連絡が来だ時に
Bさんへのお礼をどうしたらいいか、と相談した。

「ご飯をご馳走したらいいんじゃないですか?」

明日の夜ぐらいしか時間ないけど、Aさんにもお礼したいけど、お仕事で忙しいみたいだし、お二人にどうやって感謝を表せばいいか…

たくさんの方にご尽力いただいたけど、やっぱりこのお二人がいなかったら、会えなかった。

全てが先祖が巡り合わせたとしか思えないご縁だなぁと思った。

部屋でビールを飲みながら
翌日、会った時に言いたいことを練習したりした。
(結局、全く役に立ってないが)






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