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レデラジ#31|発達特性のある子どもの86%の親が悩む“服選び”―『どうやって着ても間違えない服』が生まれたきっかけ

ひとりひとりが過ごしやすい社会をともにつくるをミッションに活動するLedesone(レデソン)のショートラジオ番組「レデラジ」

今回は、裏表と前後がない「間違えない」服を開発・販売している「fukufuku312(フクフク サンイチニ)」代表の前田さんに、この服を開発したきっかけや思いについて伺います。

レデラジはnoteではテキストとして、Spotify、Apple Podcast、Youtubeでは音声でお楽しみいただけます。



服の困りごとは千差万別 制服の触感が苦手で好きな職業に就けないことも

Ten:
今回も、裏表と前後がなく、どうやって着ても「間違えない」、Tシャツを開発する「fukufuku312(フクフク サンイチニ) 」代表の 前田さん にお越しいただいてます。

前田さんよろしくお願いいたします。

前田:
よろしくお願いいたします。

Ten:
前回は前田さんが製作されている、前後ろや裏表がないTシャツやズボンなどの製品についてのお話を伺いました。そのときに、もともとは発達障害の人に向けて開発をし始めたのが最初だと伺いましたが、そもそも、発達障害の人が感じる服の困りごとには、どんなものがありますか?

前田:
人によって困り事はそれぞれ違うんですけども、よく聞くのが決まった素材の生地しか着用できなかったり、あと襟やタグがダメだったり、ボタンやファスナーが自分でうまくできなかったり、一人で着脱するのがなかなか難しかったりということがあります。

ひどい方だと自分が着心地よく着れる服がなくて、服が着れない。服が着れないと日本だと外に出れないじゃないですか。外に出れないので、学校に行きたくても行けないという方もいらっしゃいます。

Ten:
なるほど。僕も発達障害の当事者として服の困りごとは結構あります。例えば、前回お話ししたように、裏表をよく間違えますね。あとチクチクする、タグがしんどいという話も結構聞きます。

前田:
発達障害に限らずですけど、タグが苦手という話はよく聞きますね。

Ten:
僕も結構、着やすい服、着づらい服があるのでわかります。後、半袖しか着られなくて、もう年中半袖という方もいらっしゃいますよね。

前田:
半袖から長袖に切り替えられなかったり、逆に長袖から半袖に切り替えられなかったりとかも。だから真冬でもタンクトップの方も結構いらっしゃいます。なぜか分からないけど、この服じゃないと嫌だからと、その服がぺらぺらにボロボロになっても、それしか着なかったり。

Ten:
本当に服のこだわりというか、服の材質によって着られる、着られないがあったりしますね。僕もよくセーターなどを着るとチクチクしてるような感じになって、それがすごく嫌で、セーターはあまり好きじゃないです。

服も、最低限肌に当たる部分はコットン100%じゃないと着られない。いつも服屋さんに行ったときは、見た目よりも肌触りを確認します。

前田:
わかります!外から見たら「あいつ、なんやろな」と思われるぐらい、服の肌触りだけささっと触っていくんですよね(笑)。

Ten:
そうなんですよ!肌触りはめっちゃ確認しますね。昔、親から服を買ってもらったりしたときも「あ、この肌触り無理だ・・・」となるときもよくありました。

前田:
わかるな~。そのお母さんの気持ちもわかります(笑)

Ten:
友達から服をもらったりすることもあるんですけど、「これは肌触りすごくいいからもらう!」とか「これはちょっと無理だから、ごめん」とか。

前田:
襟ぐりが詰まっているのが無理という方も結構いらっしゃいますね。タートルネックはダメという方も多いですし、首元が閉まっているのが辛くて、制服のワイシャツなども着れなくて困るというお話もよく聞きます。

好きな職業に就きたいけど、制服が着れないので就けないということもあります。

Ten:
制服がしんどいから無理だということですね。

前田:
職場によっては帽子も被らないといけない場合もあるじゃないですか。あと、服からちょっと離れちゃうかもしれないですけど、マスクが着用できないので接客業ができませんという場合もあります。コロナ以降、かなり厳しくなってきてしまったので。

Ten:
学校の制服は自分の肌触り的に好きじゃなくて……という悩みもあったりしますよね。

前田:
保育園などでも制服があるところもあるので、結構困ってらっしゃる方が多いですね。

きっかけは息子の発達障害 突然服が着られなくなった

Ten:
ありがとうございます。発達障害の困りごとに着目したきっかけや、この服を作っていこうと思ったのはどんなきっかけだったんですか?

前田:
私は子どもが2人いるんですけれども、長男が発達障害です。息子が2歳の頃から、だんだん触覚過敏が酷くなってきて、着られる服が本当になくて。さっき言っていたように素材が決まってたりだとか、襟やフードもダメだったり、あと息子の場合、凸凹のあるプリントもダメだったんですね。

そういうことがだんだん増えてきて、それに加えて小学生になっても一人で着脱することができなかったんですよ。なので息子がひとりで着脱しやすくて、着心地のいい服を市販の服屋さんで探そうと思ったら、何件回ってもなかなか難しくて。「やっと見つけた!」と思ってもぜんぜん可愛くないとかよくありました。息子の妊娠中には「子どもとおそろいの服を着て出かけたい」と夢を見てたんですけど、思っていてたのと全然違うなと(笑)

もう市販の服屋さんで息子の服を探すことが大変すぎて、「これだったら自分で作った方が早いんじゃないかな」って思ったんです。それまで、ミシンとか全くできなかったんですけど、得意なお友達に教えてもらいながら息子の服を作り始めたのがきっかけですね。

Ten:
最初は息子さんのためにだったんですね。息子さんの服の困りごとは具体的にどんなものがあったんですか?

前田:
息子の場合は、まず柔らかくて伸縮性のある素材じゃないとダメなんです。襟やフード、そういう装飾品というか、別に服に最低限無くてもいいようなパーツがあるものもダメで。

プリントもちょっと膨らんでいるようなプリントとか刺繍とかワッペンとか付いてたりするのもダメだったし。あとボタンは、全部噛み砕いてましたね(笑)。なので市販の服で見つけるのが難しかったですね。

Ten:
それは幼い頃からそうだったんですか?

前田:
うちの息子の場合、あきらかに「ここ」っていうのがありました。2歳までは本当になんでも大丈夫だったんですよ。2歳の地元のお祭りの時に、息子に甚平を着せたんです。そしたら、めちゃくちゃ泣き出して。喋れなかったので、なんで泣いているのかわからなくて、オムツ替えてみたりとかご飯あげてみたりしたんですけど、ダメで。
いつもと違うことといえば、この甚平を着せてることぐらいだと思って、脱がせたらピタッと泣き止んだんですよね。今から思えば、甚平の素材って伸びないですし、カサカサしているし、初めて着る服だしって、ダメな要素てんこ盛りなんですよ(笑)。

そこから本当に「これもダメ」、「これもダメ」っていうのがすごく増えて、息子の場合は10歳ぐらいになるまでだんだん激しくなってきた感じですね。

発達障害の人に寄り添う服を普通に買える社会にしたい
多くの人に支えられて出来たユニバーサルデザインの服

Ten:
それで着られる服を探そうと、いろいろな服屋さんを回ったけど、全然無かったり、あってもかわいくなかったり……という経緯があったんですね。そこから、自分で開発しようと思うに至ったのは?

前田:
全然、開発しようという気はなかったんです。もともとは、息子のために作った服をSNSにアップしていました。探すのが大変なので、自分の息子が着れる素材の生地を買ってきて、息子が着やすいようなデザインにして作ってたんです。それまでミシンの使い方もまるでわからなかったので、友人に教えてもらいながら。

Ten:
もともと服を作ることが得意だったわけでは無く、初心者から始められたんですね。

前田:
そうです。ぞうきんも縫えないようなレベルでした(笑)。本当に必要に駆られてですね。
それをSNSに上げてたんですけども、それをたまたまママさんの社会参画を応援してくださってるNPO法人の代表の方が見てくださってたんですね。その方とは前から面識がありまして、「発達障害の方に寄り添う服ってまだ誰もやってないから、これ事業にしたら?」と声をかけてくださったんですね。

「いや、そんな大それたこと……」って思いながら、とりあえず私たち親子と同じように悩んでいる方がどれぐらいいるのかなと思って、発達障害者の保護者100名にアンケートをとってみたんです。

そしたら100名中なんと86名の方がお子さんの服に困ってるという統計結果が出たんです。

「(今は大丈夫だけど)小さいときは困ってた」とかそういう意見もあるんですけど、これは需要があるんだなということで、自分にできる範囲でできるとこまでやってみようと、今まで活動させてもらってる感じですね。

Ten:
なるほど。それはいつ頃の話ですか?

前田:
2018年くらいですね。

Ten:
2018年ぐらいから開発を少しずつされてきたんですね。そこから実際にしっかり販売したり、量産するかたちにしていったのは?。

前田:
先程申し上げたように、私はドシロウトなので、私が作った服は売るわけにもいかないので(笑)、まず作ってくださるところを探さなきゃと。最初は、私が考案した服は「練習着」になればいいなと思ってたんですよ。一般の服が着れるようになるまでの練習になればいいなと思ってて、その服を発達障害の方とか障害の方が働かれてる作業所さんに作ってもらえたらなと考えていました。

作業所をいくつか探したんですけども、バックや小物を作っているとこはあるんですけど、服を作っている作業所がなかなかなくて。私は和歌山なんですけども、ママ友の知り合いに大阪でミシンで小物を作っている作業所さんのオーナーさんがいらっしゃったんです。その方がもともとアパレルで働いてたので、「もしかしたら何とかしてくれるんじゃないかな」ということで、ダメもとで私が作った服を持参して、「こういう服を売りたいんですけど」って営業しました。

「じゃあ、できるとこまでやってみようか」って言ってくださったので、それでそこの作業所さんに服を作ってもらうかたちで、一番最初はクラウドファンディングで販売を開始しました。

Ten:
クラウドファンディングからのスタートだったんですね。そのあとそこで量産し、それをしっかり製造していったんでしょうか?

前田:
ただ、作業所さんは量産が難しいんですよ。そんな形で販売を始めてみたんですけども、息子の子育てをしてる中で、発達障害の方って、たまたまみんなとは違う感覚で生まれてきただけなのに、たまたま大多数の同じ感覚の人達が作った社会のルールに頑張って合わせて生きてくれてるなと感じるようになったんです。なので息子に、どこまでこっちの感覚に合わせてくれって言うべきなんだろうなというのをすごく疑問に思うようになってきたんですね。

例えば、日本だからお箸使ってご飯食べますけど、他の国のでは手づかみで食べることもあるし、また他の国では外でも裸で良いかもしれないのに、頑張って息子にお箸の使い方を教えて、本当は服を着たくないのに服を自分で着るように教えて……っていうことに疑問を感じたんです。できるところはこっちが合わせてもいいんじゃないかなって、社会の方が合わせてもいいんじゃないかなって思うようになってきました。

ちょっとぐらい視力が弱くても、めがねやコンタクトが普及してるから障害って言わないじゃないですか。服も発達障害の方に寄り添った服が当たり前に普及しているような世の中になれば、服に関してもこの生きづらさというか、障害が軽減されるんじゃないかなと考えるようになった時に、fukufuku312の服がただの練習着ではなくて、世の中に当たり前にあるような世の中にしたいなと思ったんですね。

となると、作業所さんじゃ量産ができないので、企業さんとコラボして服を作ってもらわないといけないって考えが変わっていったんです。たまたま何度かメディアに取り上げていただく機会があったので、それを見た企業さんが何社か「うちでも服を作らせてくれませんか?」、「何か力になりませんか?」とお声がけいただきまして。

ただ、お声がけ頂いたものの、「こんな服です」って見せると、「こんな服は作れないよ」って言われるんですよね。なぜかというと、前回「折り伏せ縫い」という縫い方をしているといったんですけども、普通の場合は1回ミシンでダダダッと縫えばいいところを、この縫製の場合3回縫わないといけないので、単純に手間がかかりすぎるんです。

私がドシロウトなので、そういうデザインを考えて作ろうと思ったのかもしれないけども、プロは手間がかかりすぎるのでそういう縫い方はしないんですよね。今は縫製メーカーでは取り扱ってくれないって言われてしまったんです。

それで「どうしようかな」と思ってたんですけども、1社だけ、それでも私の想いに寄り添ってあげたい、どうにかしたいとおっしゃってくださる会社さんがいらっしゃいまして、「うちではちょっと難しいけれども、同じ和歌山のドック繊維さんだったらどうにかしてくれるかもしれない」とご紹介いただきまして。

参考:

ドッグ繊維さんとお話しする中で、すごく私の想いに共感してくださったんです。あと、これは発達障害の方だけじゃなくて、一般ニーズも見込めるということで、今ドッグ繊維さんとコラボして商品を提供しています。

Ten:
なるほど。そういった経緯で服が開発されて、今、発売に至ってるんですね。

前田:
本当にビジネスだけ考えているような縫製メーカーだと無理だというお話だったのでドッグ繊維さんには感謝しかないですね。

Ten:
すごいいろんな苦労や、いろんな出会いによって製品が生まれているというのが、よくわかりました。

前田:
本当に私自身は何もできなくて、「こういう服が作りたいな」とか、「こういう世の中にしていきたい」というようなことを発信しているだけなんですけども、それに共感してくださった方がたくさんいらっしゃって、そういう方たちに支えられて、今があります。

Ten:
ありがとうございます。今回はfukufuku312の前田さんに服の開発の背景や、発達障害当事者の服の困り事などをお話していただきました。次回はさらに今後どういった製品を開発していこうとしているのか、当事者の方に寄り添った服の開発で大事にしていることなどを聞いていきたいと思っています。

前田さん。今回もありがとうございました。

前田:
ありがとうございました。

Ten:
今回もレデラジをお聞きいただきありがとうございます。レデラジでは感想やご意見の他にこんなトピックを取り上げてほしいなどのコメントを募集中です!
次回のレデラジもお楽しみに!


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