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レデラジ#25|発達障害について発信するなちゅ。さんが大切にしている当事者としての発信のポイントとは?

ひとりひとりが過ごしやすい社会をともにつくるをミッションに活動するLedesone(レデソン)のショートラジオ番組「レデラジ」

今回は、2024年8月に『発達障害と生きる親子のための小学校コミュニケーションハック』が出版され、SNSで発達障害について発信されているなちゅ。さんに、日常生活の中でどのように情報を集めているのか、また情報を発信するにあたって大切にしている点をお伺いしました。

レデラジはnoteではテキストとして、Spotify、Apple Podcast、Youtubeでは音声でお楽しみいただけます。



自分の困りごとや好みの視点からの情報発信

Ten:
Ledesoneがお届けするショートラジオ番組「レデラジ」
モデレーターのTenです。
今回も前回に引き続き、X(旧Twitter)でさまざまな活動をされている「なちゅ。」さんにお越しいただいてます。なちゅ。さんよろしくお願いします。

なちゅ:
なちゅ。です。よろしくお願いします。

Ten:
前回は、8月に発売されたなちゅ。さんの著書『発達障害と生きる親子のための小学校コミュニケーションハック』という本についてのお話をしていただきました。この本もなちゅ。さんのXの発信から生まれたということで、今回はなちゅ。さんがどのように情報の収集や発信をしているのかなどについて、より詳しくお聞きしていきたいと思います。

なちゅ。:
私は常々、こうして発信できているのはADHDの特性がすごく良い方向に進んでいった結果だなと思っているんです。ADHDもさまざまな特性がありますが、私の場合は「多弁」で、めーっちゃしゃべるんです。さらに短期記憶が弱くて脳内に記憶を置いておけないので、とにかく出来事をどこかに出して保存しておかないと新しい情報が入らない。なので、常にどこかにアウトプットしておきたいという感覚があります。

それと同時に、なるべくたくさんの情報をインプットしたいという思いもあります。でもそれって結構エネルギーがいるじゃないですか。しかも、ADHDは目についたものにパッとひっぱられるという特性があります。そのため、いろいろな情報をつまみ食いのような感覚で「あっちも!」「こっちも!」となる。情報を「読む」ということもそうですし、日常の行動の中でもあっちこっちとかなり移動しながら手に入れている情報もあって、日々、かなりの量の情報が入ってくるんですね。

これはまさに私の多動性がすごく良いほうに出ていると思います。この情報をまとめておいておくのがXになっているという感じですね。

Ten:
とにかくいろいろなところへ行ったり、いろんな人と話したりするからこそ、発信が出てくるということですね。

なちゅ。:
そうですね。それが非常に大きいです。特に私の場合、しゃべらないと思考が回らないので、いろんな人ともそうですし、家族と話すこともめちゃくちゃ多いです。誰かと話しながら思考を深めていっています。

Ten:
なるほど。少し前ですが「一行印」の話もすごくおもしろかったんですが、そういう情報は、どこで手にいれるんですか??

なちゅ。:
基本的に私は「めんどくさい」ことをとにかく解決したいんです。同じことを繰り返したくない、徹底的に効率化したいという思いがすごくあるんです。

特に、障害のある子どもを育てていると、めっちゃ住所書かされるんですよ!!提出しなくちゃいけない書類がすごく多いので。しかもうちは2人分なので、量が2倍なわけですよ。もうひたすら住所を書かされるのが、本当に苦痛で。「もう2度と住所書きたくない...!」って思った時に「あ、ハンコにすればいいじゃん!」って思いついたんですよ(笑)。

インクが不要のシヤチハタにしようとは決めていたんですが、サイズや大きさなどが全然わからなかったんです。めっちゃ調べて、ようやく作って買って、使ってみたらすごく良かった。それで「めっちゃよかったで~~!」っていうのを発信したら、すごくバズったんです。

育児界隈だけじゃなくて、介護をされている方とか、同じような悩みを持っている方にヒットしたなと思いました。

Ten:
最近だとADHDの人におすすめのイケアの椅子なども紹介されていますよね。

なちゅ。:
ゆらゆらするゲーミングチェアですよね。

Ten:
そういうのはパッと見て「あ!これ役に立つな!」と思いつくんでしょうか。

なちゅ。:
そうですね。特性による困りごとや好みなどは自分の中ではっきりしているので、その条件にマッチングするものを常に探して歩いています。そういう視点でどこに行ってもモノを見ていますね。それはネット上の情報もそうですし、リアルにお店に行ったときなどもそうです。その視点で見た時に「これ、めっちゃええわ!」と思ったものや使って実感したものを発信しています。

自分の困りごとや好きなことを言語化して、それを踏まえたうえでの日常生活の発見を発信していますね。

言語化のコツは自分を掘り下げること

Ten:
その言語化は、具体的にどうやって行っているんですか?

なちゅ。:
自分のパターンを掘り下げていくことが多いかな。「この時とこの時、違う出来事だけど同じ反応してるな…」とか「同じ行動を繰り返しているな」というパターンを抽出して、分析しています。やっぱりそこには何かしらのポイントがあるんですよ。意図せず同じ結果になるとか、同じ行動をしてしまっているときって、自分の思考の癖がある。その癖の根底には特性がある割合が高いので、パターン化していることを掘り下げていき、そこにある共通項を考えます。どこがキーになっているのかを探し出して、それを言葉にして整理して「なるほど!つながった」となることが多いですね。

Ten:
それはもともと小さいころから、そういう思考をしてきたんですか?それとも、なにかきっかけがあったんでしょうか?

なちゅ。:
これははっきりと、意識的にそうするようになりました。子どもの障害がわかったころは全然そんな考え方はできなかったですし、言語化して整理することも全く身についていなくて。

一番大きなきっかけは、実は服薬です。自分もADHDの特性があるかもしれないとわかってきたころに、子どもも同じタイプのようだということがわかりました。「この子はいつかお薬を飲むようになるかもしれない」と考え、ならば先に自分で飲んでおこうと思ったんですよ。

そこで自分も受診したらあっさり診断がついたので、服薬を始めました。

そしたらめちゃくちゃ効いて。今まで自分の頭の中にあったノイズがスコーン!ときれいになったんです。思考がすごくまとまりやすくなって驚きました。

それまではテレビの砂嵐越しに世界を見ていた状況だったのに、服薬してその砂嵐がなくなって、世界が4Kテレビになったんですよ。そうしたら今まで気がつかなかったいろいろなことに気がつくようになって、それをまた言葉にして発信していました。もう「世界大発見!」くらいのテンションで(笑)。

世界だけじゃなくて自分の感覚なども、今まではノイズがかかってて掴みにくかったりわかりにくかったりしていたんですが、スッとわかるようになって。「あ!わかった!」みたいな喜びをせっせと言葉にしていくようになったら、どんどん整理してまとめていくことが出来るようになっていきました。

言語化の訓練という意味では、Xでの発信を繰り返したことでステップアップしていったという部分もありますが、やはりお薬の効果はすごかったです。

Ten:
服薬して砂嵐がおさまって、さらにそこから発信を続けてより深めていったんですね。

なちゅ。:
そうですね。まさに、繰り返しの中でブラッシュアップしていったという感じです。

障害起点ではなく、困りごとをメインに考える

Ten:
Ledesoneは、企業の場合製品開発や新規事業などで発達特性のある方にも役に立つ製品やサービスを作るお手伝いをしているんですが、最近ではそういうサービスや商品をどんどん発信していくことにも力を入れています。

なちゅ。さん的に、そういう商品についてはどう思われますか?

なちゅ。:
今後、もっともっと増えていったらいいなと思います。特に今、そういう商品がわかりやすく増えているなと思うのが、小学生向けの文房具です。発達障害というものがこれだけ注目されて、発達障害の特性のある子どもがすごく増えている中で、あきらかに特性に配慮した文房具がかなり増えているなと思います。

もうこれは、文房具メーカーが意識してそういう商品を開発して売り出しているよね、と感じています。ただ、ここで重要なのは、書きやすい下敷きやメモ、定規、ノートなどたくさんありますが、どれも「発達障害」ということは書いていないわけですよ。だけど「うっかり忘れに」とか「壊れにくい」とか、当事者的にはわかることが書いてある(笑)。つまり、その困りごとは発達障害の有無にかかわらず、誰もが困ることなんですよね。

だから「発達障害のある子に」と書くと「発達障害のある子が使うもの!」となってしまうけれど、そうではなく、困りごとをメインにしてくれるとみんなが使えるものになる。そういうアプローチが増えてきていて、すごく良いことだと思います。

当事者の目線でのポジティブな発信を大切に

なちゅ。:
逆にそういう開発目的ではなく出てきた商品が、当事者的に「ここ、めっちゃいい!」ってなることもあります。そのポイントを、製品開発者が後から知って「なるほど!」と思ってもらえることもあって。

私はそういう商品に「当事者的にはこの商品のここがめっちゃいいポイントです!」という話をSNSで積極的に、あえて書くことにしているんです。そうすると企業の方は結構エゴサ(エゴサーチ)して見つけてくれるので、「こういうニーズがあるんだ」と気づいてもらえる。そこから次の製品開発に活かされることもありますし、広告としてのアプローチに使ってもらえることもある。

それはやはり、当事者としてできることのひとつかなと思っています。当事者の目線でのいろいろな製品に関するポジティブな発信というのは、あえてやっています。

Ten:
先ほどなちゅ。さんがおっしゃっていた「○○の障害に役立つ」ではなくて、具体的な困りごとに「役に立つ」と明記することで、より広がるというのは、その通りだなと思っています。

Ledesoneとして大切にしている考え方に、障害名や病名ではなく困りごとを起点に考えるというものがあります。例えば「忘れ物が多い」というのは、別に発達障害であってもなくても忘れ物が多い人はたくさんいます。なので「発達障害」と括らないことによって、いろいろな人に役に立つものになっていくのではないかと思います。

なちゅ。:
わかります。発達障害の話をすると「それ、誰でもそうじゃん」ってよく言われるんですよ。発達障害の世界ってグラデーションなので、確かにそうなんです。発達障害で困っている人に便利なものは、発達障害がなくても同じような困りごとを持つ人にとっても絶対に便利なはずです。

やっぱそこは気づきとして、「あ、これ便利かも」と思ってもらえるのは大事ですよね。

Ten:
ツールによってすべての困りごとが解決するというわけではないとは思いますが、少しでも軽減することができて、やりたいことが少しでも楽にできるようになればいいですよね。

Ledesoneではハッタツソンフェスというイベントを毎年開催しています。当事者の人たちも、企業が当事者の人たちに役立つような製品やサービスを作っていることを知らないことも多いですし、企業側としても取り組みをしたいと思っても、ノウハウがなくて困っているという状況があります。

なのでハッタツソンフェスでは、実際に取り組んでいる企業に出展いただいたり、開発秘話を話していただいたりしています。例えばこれまで、UDデジタル教科書体の開発を行っている株式会社モリサワや、LD当事者の声を活かした使いやすいノート「mahoraノート」を制作している大栗紙工株式会社などが参加してくれました。当事者の人たちは「あの商品には、こんな裏話があるんだ」と知ることができるし、他企業は開発のアイデア出しのきっかけになったりします。そんなふうにいろんな仕組みを増やしていくことが重要ですよね。

なちゅ。:
どうしても障害の話になると、ネガティブな切り口が多くなりがちですよね。でも、「あれができない」「これが苦手」ではなくて「この特性があったから、これができた」とか「これがこう効く!」のような切り口でとらえれば、みんながハッピーになるんじゃないかなと思うんですよ。モノを作る人にも理解が広がることで次の製品づくりにもつながるし、自分が作ったものを肯定されるのはうれしいですし。当事者の人にも「これは自分にもいいかも」と、よい気づきがあることもうれしいです。

私は全員がWin-Winになるのが好きなので、あまりネガティブな発信はしないようにしています。なるべくポジティブな切り口で話を発信していく。それを拾ってくれた人が良い方向につないでくれることが、たぶんみんなが生きやすくなる世界につながっていくんじゃないかなと思います。

Ten:
Ledesoneのミッションも「ひとりひとりが過ごしやすい社会をともにつくる」というものなんですが、一つの製品ですべての人の困りごとが解決するという話はないと思います。いろんな人が解決しやすくなるような選択肢を増やしていくことが大切で、その選択肢を当事者や企業と一緒に作っていくことができたらいいなと考えています。

なちゅ。:
その通りですね。めっちゃいいですね。

Ten:
ということで、今回はなちゅ。さんにお越しいただき、全三回にわたりお話しいただきました。なちゅ。さん、ありがとうございました。

なちゅ。:
ありがとうございました。

Ten:
今回もレデラジをお聞きいただきありがとうございます。

レデラジでは感想やご意見の他に「こんなトピックを取り上げてほしい!」などのコメントも大募集しています。
次回のレデラジもお楽しみに!


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