【第10回】煙が目にしみる。
2019.4.13
仙川に住もうと思ったきっかけが、
改札を出たあの感じ、
なんて人もいるのではないでしょうか?
随分と漠然と書き始めましたが、キリ良く第10回となります。
季節的にもキリ良く、
新生活を新しい街で、
なんて人も多いかもしれませんね。
仙川は駅前の空が少し広がって見えて、
どこか清々しい感じがして、
私はとても好きです。
そして、印象的に迎えてくれる桜。
あまり東京らしくない、
素敵な駅前の借景だなと日々思っていたり。
前回更新時に、
次回は分館の新商品をと書きましたが、
桜にあわせて、苺のフルーツサンド、
実ははじめています。
季節によってジャムが変わる、
本館のフレンチトーストのように、
分館はフルーツサンドを
通年で作っていきたいなと思います。
まず第一作目ですが、お試しをば。
さて、今回は、憧れの話。。
こうして喫茶店を生業に、
10年以上の年月が過ぎて、
気づくと不意に、
脳裏によぎる喫茶店が幾つかあります。
もう無くなってしまったお店もありますが、
いつも心のどこかには在って、
私たちがこれからを見据えて
前に進む原動力になっている、
大事な宝物と言ったら、少し大袈裟でしょうか。
そのなかのひとつのお店でもあり、
今の私たちがある、
すべてのきっかけとなった喫茶店で、
以前、こんな話をしたことがあります。
もう創業から30年以上経つ、
その喫茶店のマスターに、
珈琲の煙と紫煙で琥珀色に染まった、
漆喰の壁を眺めながら、
いつ頃染まりだしたのか、なんて話をする最中、
ふと老舗について訊ねたことがあります。
もう老舗だと思い込んで話をする私に対して、
ぱっさりと
「いや、そーいってもうちは老舗じゃないよ。」
「老舗っていうには、最低3代続かなきゃ」
「喫茶店なんて生まれて
まだたった100年くらいでしょ、
だから、喫茶店で老舗なんてありえないよ」
完全に価値観が一刀両断された思いでした。
日々淡々と開け続ける年月と、
たくさんの人たちが過ごした想い出や、
街とともに育まれた文化が、
このお店の中には満ちて、
琥珀の壁が語りかけてくるかのように、
はっきりと目の前にあるのに、
当事者たるマスターは、謙遜するでもなく、
とても平然と、
喫茶店の軽さについて語りながら、
煙草を気持ちよさそうに、
ぷかぷかとふかしておりました。
年月を必要以上に重くするわけでもなく、
喫茶店の気軽さのようなものを
大事にしているマスターは、
とても格好良くて、
仕事の重さと物腰の軽さに、
そして
店内にぐにゃり揺蕩う煙が目にしみて、
ああ、まだまだ敵わないなあと
ちょっぴり泣けてくるのでした。
そしてもうひとつ、
その時に感じた、ちくりとした寂しさが、
私たちが喫茶店を続ける
素になっているとも言えるのですが、
長くなってきましたので、
それはまた、別の機会に。。
ではでは、もうすぐGW、
そして5月からは新しい元号ですね。
伴って
本館のメニューの見直しなどを考えてますが、
間に合いますかどうか。
次回はこちら、
梅雨入り前くらいに更新できればなと。
『喫茶店に、雨。』というお話の予定。
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