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Artist Tips : Rhye

今回はちょっと視点を変えて、Rhyeの曲作りの話の翻訳です。

曲作りでどう感情を見出すのか。

マイク・ミロシュのRhyeというプロジェクトは、2012年にデンマーク人のプロデューサーであるロビン・ハンニバルと共に立ち上がり、その彼は2017年に密かに脱退したのだが、彼と二人でWomanというデビューアルバムを出した。大きな期待の下に、ミロシュはLoma VistaというレーベルからからニューアルバムのBloodを引っさげ、去年舞い戻ってきた。このカナダ人ミュージシャンの美的感覚の方向性は以前からほとんど変化してはいない。とはいえ、その主題となるものは大きく変化している。Womanが当時の妻に寄せる歌として深く心を揺さぶられるものだったのに対し、Bloodの主題は彼の新しいガールフレンドであり、私たちがとてもじゃないが普段人には見せないような、新しい恋での僅かな感情の動きを捉えたものになっている。レコーディングでミロシュはいつものやり方を見直し、楽器の生演奏を中心にして、コンピュータをなるべく使わないようにした。

ミロシュの初期の曲、特にThe FallやOpenは今でも素晴らしくて、痛く心が締め付けられたりもしたりはするが、ほとんどの曲は好きじゃなくなるなんてもう考えられないほどの出来栄えだ。基本的には、R&Bの激しさと色気を持ち、ミロシュのメッセージが持つ純粋さと繊細さを損なわないように丹念に計算された、最小限の骨組みで曲は成り立っている。Song For Youは、恋に落ちる気持ちを捉えた痛くデリケートな曲だ。Pleaseはもう少しアップテンポな曲で、私たちがみんな待ち望む気持ちにさせてくれる。つまり、エモーショナルな音楽なのに、安っぽさがない。こんなことはほとんどない。こういう曲を作り続けられるアーティストも他にほとんどいない。そういった気持ちだ。今回はSpiritというアルバム、ピアノベースの8曲に光を当てて、ミロシュがXRL8Rに、サウンドに潜む感情を捉える秘訣を語ってくれた。


本物だということは、感情だということ。

「僕の歌詞はいつも、人生で心が動いた瞬間から生まれるものなので、内容としては激しい感情だったり、悲しみ、喜び、官能的だったりします。自分の曲の土台にパーソナルな部分をさらけ出すことはまずないんですよ。というのも、聴いてる人に自分自身の体験としてこの音楽を聴いてほしいからなんですね。でも、Patienceに関して言ってしまうと、これはホテルの滞在が続いて、彼女にしばらく会えなかった経験から生まれたんですよね。何が言いたかったというと、『この瞬間僕らが一緒にいなかったとしても、僕は取り返すよ。これが僕が君にしてあげていること。一緒にいられたはずの時間を、ただ無駄にしてるわけじゃない。君にわかってほしい僕の気持ちがこれなんだ』ってことです。僕の曲はだいたいそういうことを背景に作られていて、時にはかなり詳細に描いてたりしますし、ポジティブな時もあればネガティブな時もあったりします。

本物とは、どんなに魔法のように素晴らしい機材やスタジオでも生み出せないような共鳴を作り出すってことだと思うようになりました。心を、真実の部分を開いて、歌わなければいけない。曲に加える部分、あるいは削る部分、そういうものは、曲に込めた感情に敬意を払って行われないといけないと思います。言い換えるなら、人を感動させる唯一の方法は、嘘偽りのない気持ちになって、自分が感動する曲を書くこと。感じて、何の判断もせず、描いたゴールなど作らずに、自分の中から感情と音楽をそのまま生み出すこと。僕は”Letting”という言葉が大好きで、レコーディングの時の軸にしています。この軸に沿っていけば、新しい曲を生み出すプロセスを完全に信頼することができるんです。

これに決まった道筋はありませんし、ぶっちゃけて言うと、所詮は作曲のプロセスで感じたものでしかないんです。でも曲自身が曲の節々に対して、そういうものを持ち合わせているのかと問いかけているはずなんですよね。この深い部分のやり方を見つけるなんてことはできません。感情の中に自分を埋めるしかない。音楽と、自分の感情を反映したものをつなげるってことでしかない。

僕は今、スタジオに来て電源を入れたところです。なぜここにいるかというと、音楽に向き合いたいからなんです。人生を生きてて起こったことは自然と曲のコンテクストに落とし込まれていくんですよ。感情や激情といったものは曲の中に常にあって、そこに自分を置きながらレコーディングをしているので、その瞬間はそうなっていると思います。去年持っていた感情を描き出す詩人になっている、みたいなことではないんです。そういうのとは違うんです。実際、感情と曲中で捉えたものにそんなに大きな食い違いはないんだと確信しているんだなと感じているじゃないかなと思ってますね。

そう考えると、歌い始めた途端にこの感情、あるいは激情を持つ気がしてて。客観的に言えば、僕の声がどうやって感情の扉を開くのかということに密接な繋がりがあると言えるんじゃないかと思っています。僕の声が僕の感情に働きかけ、そして僕の感情が僕の声に働きかける。このやり方ができて、僕はとてもツイてるなとも感じています。

ついでに言ってしまうと、このやり方は、上手くいくかどうかで言えばちょっとどうかなというところがあります。ですが、僕の周りにいる人はビジネスとアートの違いをわかってくれると、僕は強く信じています。中には世に出さない曲もあって、そういうのはいつ聴いても本物だなと思えないんですよ。あと、メジャーレーベルと契約していないということは、常に音楽をリリースしなければいけないという重圧から解放されているという側面もあります」

意図、それが鍵。

「これはさっき言ったこととリンクしています。音そのものではない部分で曲作りにおいて最も大事だと思っていることがあって、特に感情と共鳴させる時のことなのですが、それは意図なんです。僕は「ヒット」させたいとか、誰かを喜ばせたいとか、そうやって曲は作らないんです。仕事として曲を構成したりはしない。そうするしかないんです。というのも、音楽を通じて感情を表現するのが好きなんですけど、好きでもあるというか、そうするしかないからなんです。うわべだけで何かやってはいけないんです。

曲が何かの形になって、小さな宇宙が曲の中で意味を成しているように感じられたから、曲は完成したんだとわかります。もし、初めて聴いて人の息遣いを変えられるようなものではなかった時(ちゃんと鑑賞できる環境にあればですが)、その曲は何かがおかしいまま生まれてきてしまったんです。

どうしたら曲が完成したって感じられる瞬間がわかるかというと、この感覚が頭の裏側でチクチクして、脊椎まで下がってきて、肌で感じられるからなんですね。レコーディングの時は最後にストリングスを持ってくるようにしていて、完璧な状態になるまで、完成したって感じられる瞬間にならないようにしているんです。最後に一番美味しいものを取っておくようなものですね。もちろんこれが理性的な判断ではないというのはわかっています。完璧だと感じられるだけで、分析してそう思ったわけではないんですよね。リリースしていない曲もいっぱいあるんです。だって、自分が感動できないものには厳しくいないといけないじゃないですか。

加えて言うなら、スタジオでふざけたり、曲を完成させる意思や新しいものを書く気がないなんてことも大切なことだと思っています。僕はスタジオに入って最初の90分は新しいものを書くことに費やしています。クリエイティブにさせてくれるものは好きですからね。そしてこれは誰にも見せることはありません。多くの時間は、何か音の実験をしたいがために過ごしているだけなんです。例えば、最近the Culture Vulture(訳注:ディストーション)を買ったんですね。これを使って、スネアの音がどうなるんだろうって試してたんです。何時間もビートを作ってはこのエフェクターに通して。こんなの曲作りではないってのはわかりつつ。どんな音が自分の曲に使えるか理解したくてやっていて、それでこのサウンド使おうかなって思って。こんな音が作れるなら曲が完璧に仕上がるなってわかったので」

スタジオのレイアウトを考える。

「感情が自分の中からきちんと表現するために必要なことはただひとつ、その工程をきちんと生み出すようにスタジオがセットされてあるかどうかです。今、私のキーボード関係は全部コンピュータの画面とは完全に反対方向を向いています。Blood以前から、音楽作成ソフトのレイアウトは直線的で堅固なものだという認識がありましたし、こうしたおかげで本当にクリエイティブな要素が育まれ、頭を使った分析をせずに済むようになりました。なので、作曲をする時はコンピュータの画面を見ないというやり方に変えました。

僕にとっては非常に大切なことなんです。Milosh名義で、細かいディテールや調整そのものであるエレクトロニック・ミュージックを書いた後によくわかったんですよね。ある日、こういうリニアフォーマットな音楽について本当によく考えるようにと、そういう音楽が教えてくれたんだなって気がついたんです。すべてのDAWは同じコンセプトで作られていて、左からスタートして終わりある右へ続いていく。このシステムに制限されているような気持ちになってしまって。というのも、音楽には本当に無限の可能性があって、もっといろんなことを経験するためにこの習慣を打破しなければいけないんです。もっと言えば、こうすれば考えるよう自分に仕向けられるし、Lシェイプの机でモニターを見ていたら気が付かないようなきっかけを逃さないようにできます。だから、僕はスクリーンを見すらしないようにしています。
自分の心の中に、体の中に入り込んでいくんです。漂うんです。例えば何かの楽器をレコーディングしています。ドラムだったり、ピアノだったり。スクリーンなんて絶対に見ません。最初から最後まで、これをDAWでどう配置しようとか、そんなことは一切考えなくなりました。今ではもう自分の音楽についての考え方も変わりました。これは例えばどんな感じかな?長さは十分かな?自分をどういう気持にされてくれる?こうすることで、他の何者でもなく感情で自分の音楽を判断できるようになりました。

自然と、感情を伝えるのにこれが役立ってきます。作曲の際のサウンドは作曲中に感じていることの表現ないしは翻訳だと考えることができますし、どんだフォーマットで録音されるかなんて一切気にしなくて良い、そしてサウンドそのものだけに集中できている瞬間に、まったくもって新しい方法で特定の楽器と本当に繋がったと言えるんです。

例を上げると、僕の最新のアルバムではMoog Oneを使ったんです。めちゃくちゃ複雑なシンセサイザーなんですよ。この楽器に身を任せてそれで何かが掴めたとしたら、この楽器は実際の感情を表現する乗り物に成り得る代物なので、そのまま放っておけばいいというね。耳を傾け、目を閉じて、感じる。パソコンのスクリーンばかり見ていたら、こうはならない」

生み出したいサウンドと道具の組み合わせを考える。

「どの曲においても、自分が作り出したいサウンドと、使う道具の組み合わせはよく考えておく必要があります。道具とレコーディングのプロセスは一般的にある種の魔術のようなものですが、何を作り出したいかのイメージを持たないままで実験に時間を割くことも非常に大切なことなんです。もちろん自分の使う道具が自分の作り出したい作品にどう影響してくるか、そしてその環境下においての自分のパフォーマンスにどう影響してくるか、きちんと覚えておかなければいけません。僕は20年も音の実験をしてきました。そうして、自分の作品の好きなところがわかりますし、特に、自分のボーカルが作品にどう影響するかもわかる。そんな境地に達しました。

ドラムを取って例を挙げます。ちなみにこれはかなり普遍的なテクニックだと思ってます。洗車の時に使うような革をスネアに載せて、最小限のマイク(最大で3つ)で録り、それからすべての音をChandler Curve Bender(訳注:著名なアナログEQ)にリルートして、Chandler TG1(訳注:著名なコンプレッサー、リミッター)を使ってほんの少しだけコンプレッションをかけます。ツマミはほとんど回したいとは思いません。ドラムを強く叩きたいとも思いません。代わりに、軽くて大きいスティックを使うんです。これが好きなのは理由があって、ドラムで落ち着きたい、というかむしろ心地よくなりたいからなんです。強くドラムを叩いたら、感情の共振が得られません。スネアの音が毎回目立ってしまってスピーカーからそれが伝わったら、違うなって僕は感じます。ちなみにEQのカーブで調整する時も、ロジックを無視しています。自分の耳と直感に任せています。

ピアノの時もいろいろ考えていて、いつもミュートしています。というのも、あんまり主張してほしくないんですよね。そういうのは僕の作る音楽で伝えたいことではないような気がするんです。ストリングスが優しく鳴っているのが好きなんです。ピアノの録音の時はいろんなマイクを使っているんですが、そうするといろんな要素を捉えられるんですよ。僕は、落ち着いたピアノを聴いてほしいんです。その音で包み込まれてほしい。うるさく感じて音量を下げることがあってほしくないんですよね」

ボーカルでは、コンプよりもマイキングのほうが大事。

「ボーカルテイクの早い段階では、コンプレッションよりもマイキングのテクニックのほうが大事だと思っています。実際、レコーディングの早い段階でコンプレッションを使うとパフォーマンスをガチガチにしてしまうと僕は感じていて、『感情がこぼれ落ちてくる』("letting" the emotion fall out of you)はずのところで、理想の感情にすべく格闘するなんてことに、最終的になってしまうんですよ。そういうのは僕はちょっと息苦しいなって思ってしまいます。なんていうか、ブランケットに覆われているような気持ちです。なので、コンプレッサーは使わないぞ、頼らないぞという意思を持って、自然な形で始められるようにしています。

こうすることで、コンプなしのレコーディングができますし、コンプがかかっちゃうんじゃ、みたいなことを気にせずにいられます。僕は曲によってマイクを使い分けていまして、古いNeumannのU67と、新しいBockの241を使っています。直にマイクに向かって歌うことは絶対にしないようにしていて、45度の角度から録った音のトーンのほうが好きだからです。これは僕は良いのですが、他の人にとっても良いかはわかりません。

録音が終わった後にだけコンプをかけます。でも、コンプがかかったなという音じゃなくて、そもそものテイクがどう聞こえるかを基準に考えています。強い基準にしています。たまにはManley Vox Box(訳注:著名なチャンネルストリップ)にボーカルテイクを通すこともありますが、やったとしても、本当にちょっとだけ、最低限の最低限くらいのコンプをかけるだけで終わります。

そう考えると、僕が本当にコンプを使っているなっていうのはドラムと、エフェクトとしてですね。例えばシンセのラインにかけたりします。曲の質を引き上げる音のきらめきを作ることができますね」


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