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ボーカルのピッチ修正の基本

コンプレッションもそうですが、ボーカルのピッチ修正も、音楽制作の現場では神業的なパフォーマンスを作り出す方法の一つになってきました。事実、ファンだけでなくエンジニアでさえももう気づかないくらい当たり前に、ポップスやロック、ヒップホップでよくボーカルは修正されています。

プロデューサーの中にはボーカルのピッチ修正をクリエイティブなエフェクトとして使う人もいますが、ピッチ修正ソフトのもともとの目的は、ボーカルの可能性を最大限に引き出すことにあります。NectarやMelodyne(現在Nectar3もしくはMPS2の付属品としてMelodyne 4 essencialがついてきます)といったソフトを使えば、ボーカルのピッチの修正は簡単に行うことができます。ただし、ナチュラルなボーカルにしろロボットボイスにしろ、望む結果を得ようとするためにはまず音程と声についての基礎を学ぶ必要があります。

ピッチ修正するとどうなるのか?
言うまでもないでしょうが、メロディを書くとなれば無限の可能性があります。キーを選べば、あるムードやフィーリングを生み出す音の組み合わせの選択肢が決まってきます。したがって、キーが合っていて他の楽器と調和するようなボーカルでないと、すごく違和感を感じることになります。そういった時は、ピッチ修正が必要です。

シンプルに言ってしまえば、ピッチ修正ソフトはボーカルの音程を個別にキーに合うように調整します。自然な状態にすべく「間違った」音程だけを修正もできますし、全体のミックスの中でもっと目立つようにすることもできます。

目的にあったプラグインを選ぶ
ボーカルのピッチ修正をする主なツールは2つあって、Melodyneと、Nectar3に入っているピッチモジュールです。MelodyneはNectar3を購入する際のバンドルとして付属しています。Melodyneでは、一音一音を正確に編集することができます。Nectarでは、パラメーターのセッティングを一つ一つ一括で変えていって、リアルタイムでボーカルのパフォーマンス全体にアプローチしていきます。ボーカルをどうするかの具体的なシナリオ次第で、それに合ったアプローチ方法が決まってきます。

繊細なボーカルだったり、メロディの変化が多いパフォーマンスだったりという場合は、一音一音アプローチしていきます。繊細なボーカルには、各音の音程の特徴を変化させる方法を取りたいですよね。これはやんわりなバッキングのトラックの時に特に向いていますし、ボーカルの本当に細かいところまで聞き取れるようになります。型破りなパフォーマンスやあえてキーを外したいところなどでは、別の理由でもっと注意しなければなりません。つまり、全体を一括で修正するとむしろ間違った音程になったり、人工的な声質になってします危険があります。

基本的にボーカルのパフォーマンスが音程が取れていて、少々整えたい音程があるとかエフェクトとしてボーカルのピッチを修正したいといった時は、一括でパラメーター処理する方法が向いています。キーを決まったところに修正すれば、意図したように音程が揃ってきます。もちろん一度聴き通して人工的になっているところがないか、音程がおかしくなっているところがないか探す必要はありますが、ピッチがほぼきちんとしていればそうした失敗の可能性は低いでしょう。

トランジションを理解する
バーチャルソフトウェアの楽器と違って、人間の声は次の音へスムーズに移行するわけではありません。ボーカリストは次の音へ高速でピッチを移動させています。低音から高音へはフラットに、高音から低音へはシャープに発声し始めます。下のMelodyneの画像で、そういった短く尖った部分や凹んだ部分が(細いウェーブラインとして)現れています。

(Melodyneでのトランジション)

トランジションへのアプローチ次第で、リスナーが作品でピッチ修正してあるか気付いていしまうかどうかが、だいたい決まってきます。求めるピッチに急速に移行するとボーカルは人工的でT-Pain(アーティスト)が使うボーカルエフェクトのようになりますが、徐々に移行していくようにすればもっとありのままの状態になり、自然な響きを維持できます。下の2つの音声を聞いてください。違いは明確だと思います。

(とは書きましたが、おそらく権利上の関係でSoundcloudを埋め込むことができないので、元のページに飛んで聴いてもらえると助かります。
T-Painの楽曲を参考資料として下に貼っておきます。ちなみに上はボーカルにエフェクトが掛かっていますが、下のライブ動画では生歌なのでエフェクトが掛かっていません。)

どの設定を選べば良いかは、ボーカリストや音楽のスタイル、そしてあなたがどのように仕上げたいのかによって決まってきます。速いトランジションは通常、そこまで上手ではないパフォーマンスを隠すためになされます。しかし、一切のエフェクト無しで本当に上手に歌い上げるJames BlakeやBon Iverのようなアーティストは、声を震わせるようなエフェクトとして速いトランジションをかけたりします。

(訳注:参考資料として下にJames BlakeとBon Iverの楽曲を貼っておきます)

ピッチの揺らぎを保つ
ビブラートと呼ばれるピッチの揺らぎは、どんなボーカルのパフォーマンスにも含まれます。ビブラートを使うとクリーンな音程よりもリッチでエモーショナルな音になりますし、特に言葉やフレーズに最後に掛けるとより良いものになります。このビブラートをコントロールするための訓練をボーカリストはかなり重ねています。揺らぐ音はほとんど母音が中心となります。

不意に掛けてしまったり、やりすぎなくらい掛けてしまったり、すべきでない歌詞の部分を強調してしまったりということは十分あり得ます。また、ボーカリストがビブラートのコントロールを学ぶと逆に、揺らぐというより震えている揺れているという状態に近くなって、パフォーマンスから自信やパワーが失われてしまうケースもあります。

(Melodyneでの揺らぎ)

Melodyneでは、各音のピッチの揺らぎをちょうどよいというところまで減らすことができます。ただし、変化や揺らぎを完全に取り除いてしまうとむしろもっと不自然な音に仕上がり、速いトランジションと同じく完全に人工的なサウンドになってしまいます。

フォルマントを考慮する
フォルマントとは、喋ったり歌ったりした時に声帯から必ず発生する共振で、自然な声質の成分です。口や下の位置の動かし方でフォルマントが固有の母音に仕上がります。

Nectar3では、人工的なフォルマントを別の響きに変化させてくれます。フォルマントを下げていくと声に深みのある印象を与えてくれ、上げていくと鼻にかかった音に仕上げてくれます。ピッチ修正と違って、フォルマントを変化させると実際のピッチを変化させることなくボーカルのカラーにインパクトを加えることができます。

(Nectar3でのフォルマントの変化)

ピッチ修正が隠し味くらいにしか使われないフォークやアコースティックの曲では、ボーカルの特徴が保たれたままの方が良いでしょう。しかしヒップホップやR&Bなどの、多少のおふざけや実験精神が許される楽曲では、ピッチの変化にマッチするようにフォルマントを上げ下げした時に何が起こるのかを探るのも、十分価値のあることでしょう。一回きりの明快なエフェクトを作り、曲のムードを変化させるボーカルの魔法を生み出すことだってできます。

ハーモニーを加える
Harmonyのモジュールは、ピッチが修正されたボーカルを強調して形付けるための選択肢を広げてくれます。リードボーカルをベースにオクターブ上下の、キーの合ったハーモニーを即座に作り出してくれます。全体のピッチ修正のパラメーターに則って加わえられたハーモニーもチューニングされていくので、ピッチのズレたハーモニーが生成されることはありません。

Nectarのインターフェース内で、Voicesと呼ばれる8つまでハーモニーが使え、またMIDI Modeで4つ以上のハーモニーをピアノロールもしくは外付けキーボードなどから演奏することができます。

(Nectar3でのハーモニーの重ね掛け)

それぞれの点を横に動かすとステレオフィールドを、縦に動かすとゲインをコントロールできます。上の画像では、6つのハーモニーをほぼ均等に左から右へとパンニングしています。2つはリードボーカルのユニゾン、別の2つはオクターブ上、また別の2つは三度上です。

(これも上記と同じくここに載せられないのですが、上のサンプルと全く同じものです。)

スタジオで録音された本物のハーモニーのようにピッチやタイミングに変化をつけると、より自然な仕上がりになります。より集中して編集できるよう、加えるハーモニーをソロで聴くこともできます(Voiceだけの機能になります)。

まとめ
かつては、ボーカルが悪いとレコーディング全体をやり直す必要がありました。今ではNectar3やMelodyneのようなツールのおかげで、各音のピッチや歌い方を調整でき、同様にリアルなハーモニーを数回のクリックで生み出すことができます。

正しい方法で使えば、こういう機能はパフォーマンスの感情的なクオリティを引き上げてくれます。しかし、何の考えもなしに使うと、むしろ悪化する危険性を孕んでいます。ナチュラルなボーカルのピッチ修正にしろ、よりロボティクスなものに作り変えるにしろ、どういったものにしていきたいのか目的を持って手段を選んでいかなければなりません。

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