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ひとりで生きる

「ほんとうに困ったとき、誰に相談する?」
油引きの木の床に大きなソファのある郊外のカフェ。友人はちょっと座り直して聞く。
「ほんとに困ったとき?」
「そう。」
うーんーと考えて答えられないでいると、
「そういうひとがいるっていうのが、きっとしあわせってことなんだよ。」
 なにがあっても、それがいつでも、SOSを出せるひと。出せばまちがいなく駆けつけてくれるひと。必ず自分を守ってくれるひと。
 先日、うっかり側道に擦ってパンクをしてしまった。車を買って2年、リアトランクにスペアタイヤを積んでないことに初めて気づいた。スペアタイヤさえあれば、その場で交換して近くのガソリンスタンドまで到着すればいい。もちろんタイヤの交換はやったことはないけど、スマホで調べればジャッキの使い方くらいすぐ出てくるだろう。ところがそれがない。
 結果、ロードサービスに連絡、たかがパンクにばかばかしいくらい大きなキャリアカーが登場し、それがゆっくりわたしのもとを去っていったときには、もう日はとっぷり暮れていた。
 世の中には、自分の車をご主人に買ってもらい、パンクをしたら駆けつけてもらい、あれこれ代わりに連絡をしてもらえる、そういう奥様はたくさんいる。むしろわたしみたいに、何年もかけて好きな車を買い、パンクをしたら自力で直そうと考える女のほうがずっと少ない、いや、ほとんどいないのだろう。
 幼いころ、自分をいつでもどこでも守ってくれたのは父母だった。大人になってだいぶ長い。もう父母はわたしが守るひとたちになっている。
 ほんとうに困ったとき。
ロードサービスでいいじゃない。ちょっと細身で幼い顔をしたロードサービスのお兄さん、「パンクしただけでも困ったでしょう。よくあることだからあんまり落ち込まないでくださいね。」にこっ。
わたしにはわたしのしあわせがある。

           (南紀白浜千畳敷)





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