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農業と食料安全保障
令和5年の「食料・農業・農村白書」では、第1章に「食料安全保障の確保」について書かれており、最近のニュースを見ても食料安保の話題が多くなっています。
この背景には、長引く食料自給率の低下と農業者の減少があります。また、農業国ウクライナでの紛争、途上国での人口急増などで、食料の多くを海外からの輸入に頼る日本は、今後、これまでと同じように世界から食料が調達できるのかという不安が最近になって表面化しつつあるのだと思います。
これまでの国内農業、農業者を守るという方針よりも、国民の食料を確保することの方が優先順位が上になるということだと思います。高い生産性をあげれる農業者を支援を集中することになると思います。規模の拡大や、担い手も企業に開放し、農業に対する投資を拡大する方向に向かうのではないかと推測します。
そもそも、日本の食料自給率が低下したのは、戦後、経済成長の過程で、食の西洋化が急激に進んだからであり、日本の狭い国土では、近年の日本人の食の嗜好にあった農業生産が不可能だということです。
1977年に発表されたアメリカの「マクガヴァン報告書」(Dietary Goals for the United States)では、欧米の食生活と比較して、日本の食事が健康的であると報告されています。その理由として日本の伝統的な食事は、米、魚、野菜、大豆製品(特に味噌や豆腐)、海藻などを中心に構成されていました。これにより、必要な栄養素がバランス良く摂取されていました。脂肪分が少なく、繊維質が豊富な食事は心血管疾患や肥満のリスクを低減する効果があり、日本人が長寿であることを裏付けているとされていました。
しかし、それ以降、日本人の食生活は大きく変化します。食の西洋化によって肉や乳製品など脂肪分を多く含む食品が好まれるようになり、お米の消費量が減少し、パンやパスタなど日本で原材料を調達できない食材の消費量が増えました。同様の加工食品も増え、ファストフード店などで気軽に外食を楽しめるようになりました。
これらは日本の高度な経済成長の代償として、世界に誇る健康的な食生活が損なわれるとともに、農業生産と消費のギャップが生じるようになったのです。
農業生産は、その地域の気候や土壌などによって規定されます。温帯に属し、雨の多い日本では水稲作が最適であり、お米を主食とする食文化が根付いていました。しかし、お米の消費量が減りました。しかし、狭い日本の国土では近年の日本人の食を支えることができなくなり、長期間にわたって食料自給率が低下することになったのです。
1970年代からの日本の農業政策がどうであったかは、ここでは述べませんが、結果として、今、日本の食料安全保障についての議論が白書の第1章に記載されることになっています。つまり、今の農業は日本人の食料を供給する機能を失ってしまったのです。
日本の農業、農村が今後、日本にとってどのような役割を果たすべきなのでしょうか?私は日本の農業を任せるのは、経営能力や技術力がある本当のプロであるべきで、農業を国際的にも競争力のある産業として育成する必要があるのではないかと考えています。
すでに北海道の農業は大規模で、経営能力の高い農業者に集約が進みつつあります。これに企業や投資家なども資本や労働力で参加して、消費者のニーズにあった多様な農業を展開できるようにする時期ではないでしょうか?
ここで重要になってくるのが農協の役割です。そもそも農協は小規模零細農業者の経営効率を高めるために、共同購入や共同販売などを行うことで農家の経済と生活に貢献し、農村地域の活性化に資する組織でした。農協が地域商社としての役割を保ち、企業や投資家などと連携して農村地域を維持する担い手となれるのではないでしょうか?
日本国内で生産された農産物の市場開発として、海外市場が注目されています。今の農政でも農産物の輸出は重点的な政策として位置付けられています。一方で、日本は大量の農産物を海外から輸入しています。
国際協力の一環として、海外の農業を支援し、その見返りとして日本に食料を優先的に輸入することも視野に入れてみても良いでしょう。かつて、日本の主要産業であった自動車も海外に拠点を設けて、製品を国内外に販売していました。
日本で豊かな経験を持つ農業経営者が海外で活動する事例ももっと増やすことができるのではいでしょうか?