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デンマークのホルスタブロで見た建設中の巨大バイオガス・プラント

この投稿は、2011年12月7日に投稿したブログです。noteへの移行に伴い再掲しました。再掲にあたり内容の一部を編集しています。

ドイツーデンマークへの研修旅行報告の続きです。旅の順序が前後しますが、前回はドイツの個別型バイオガスプラントについて書いたので、バイオガス・プラントの話題を続けたいと思います。

ドイツのフランクフルトからデンマークのコペンハーゲンへは飛行機で90分ほどです。コペンハーゲンこ国際空港で今回のデンマークの旅に誘ってくださった酪農学園大学の中原准一先生が日本から到着するのを待って、空港から特急電車に乗ってデンマーク第二の都市オーフスに移動しました。

その後、酪農家等を訪問したのですが、それはまた別の機会に報告するとして、我々は11月24日にホルスタブロという町に建設中の巨大なバイオガスプラントを見る機会を得ました。 その前に立ち寄ったのは、ホルスタブロのヌパークというところにあるデザイン性に富んだおしゃれな集合オフィスです。

ここに今回の見学のアレンジをしてくださったヒーデン農業普及協会(Heden & Fjorden Landbrugscenter )のパレ・ホイさんのオフィスがあります。ここはデンマーク国内に34か所ある「地区農業普及センター」のひとつだそうでパレ・ホイさんは普及員(会計部長)として農業経営者の会計、税務、経営、資金調達などのアドバイスを統括しています。

デンマークの普及組織は日本の普及センターとは全く異なり、私が今回の研修旅行で最も感心したところです。これはまた別の機会に詳しく書きますので、ご期待ください。 ところで、このオフィスにはいくつかの企業が入居しているようです。

見たところクリエイティブ系の会社が多いように思いました。普及センターもまたクリエイティブ系なお仕事として位置づけられているのです。オフィス内には立派なレストランというかサロンがあり、ここで食事をいただきながら他の企業とのコミュニケーションをしているらしいのです。

入居者間でのコミュニケーションをさりげなく促進するようなシステムは日本の起業支援とかインキュベーションにはなかなかないので参考になりました。 ちなみに、札幌大通にある愛生舘ビルの私どものオフィスでも起業支援という目的でシェアリング・オフィスを企画しています。感心のある方はぜひお問い合わせください。

Heden & Fjorden Landbrugscenter

Heden & Fjorden Landbrugscenter

  この立派なオフィスから数百メートルのところに巨大なバイオガス・プラントの建設現場がありました。

バイオガスプラントの建設げんば

Nupark

当日は冷たい雨が降る寒い日でした。まだ舗装もされていなく足元がかなり悪かったです。なので、MAAVJERG BIOENERGY 社のホームページから天気の良い日の写真をいただきました。

MAABJERG ENERGY CENTER

Google Map で見るとこんな場所にあります。Google Mapの写真はちょっと古いみたいで、バイオガスプラントの建設現場はまだ反映されていないようです。近くにゴミの焼却施設などがあります。


建設中のバイオガスプラントの看板
現場に着くなり、新聞社の取材を受けました。 
MAABJERG BIOENERGY 社のディレクターのアランさん。このプラント建設のすべてを知る男です
建設現場の全景、2012年4月を操業開始予定としています。
バイオマスのタンクの地下には多数の配管がところ狭しと走っていました。

  スラリーの搬入と消化液の搬出は完全に密封された室内で行われます。床から出ている低い方のパイプがスラリーの搬入口で8t/分の驚異的な量でスラリーを飲み込むそうです。  

ガスホルダーは2つありました

さて、見学したこのバイオガス・プラントの処理能力ですが、なんと年間、家畜排せつ物45万トンを処理することができます。ガスの生産量は1,800万㎥/年とのことでした。家畜排泄物以外にも食品系工場からで廃棄物系バイオマスや下水汚泥なども受け入れているとのことでした。

これら農業系(家畜排泄物)以外のバイオマスは、別ライン「インダストリアル・ライン」で処理されており、農業系のグリーンラインとは区別されています。消化液についても、インダストリアル・ラインのものは農業系には使われないということでした。

このバイオガス・プラントへの搬入はパイプラインとトラック輸送の2系統があるそうです。下水汚泥等はパイプラインで運ばれるそうです。都市には下水処理場があり通常はこれを焼却する設備を持つものですが、この都市は下水汚泥をバイオガス・プラントに搬入する前提で計画されており、このプラントに有償で搬入しているそうです。

また、家畜排せつ物についてはこの施設から半径16kmを目処にトラックで牧場一軒一軒をまわって収集しているとのことでした。デンマークには畜産経営に対して厳しい環境規制(ハーモニー・ルール)があり、農場の経営規模を拡大(飼養頭数)を増やすためには、家畜排せつ物を散布できる農地を保有(レンタルでも可)していなければなりません。

家畜排せつ物をこのバイオガス・プラントに搬入する契約があれば、その量に応じて経営規模の拡大も可能とのことです。

畜産農家はバイオガス・プラントにバイオマスを納入するための組合をつくり、その組合でバイオガス・プラントの運営会社にも参画しています。施設の運営にも責任を追っているというわけです。

もちろん、家畜排せつ物は有償で納入しており、1㎥あたり11DKK(日本円にしておよそ170円)を支払うそうです。納入するバイオマスの品質基準も定められており、搬入現場で逐一分析を行い、基準品質を満たさないスラリーを搬入した場合には追徴金を支払うというルールもあるそうです。

また、この他にも頭数割の負担金があるそうです。もちろん、消化液も引き受けが義務付けられていますが、消化液をつかうことで肥料の購入がなくなるそうです。畜産農家も自らの経営を考えて、メリットがあるからこのバイオマスの納入組合に参加しているとのことでした。

この巨大なバイオガスプラントを建設するにあたり、紆余曲折があったようです。もともとは畜産農家の組合だけで運営する予定だったのが、下水汚泥等を受けることで市役所も参画したそうです。また、地域の熱供給公社やゴミ処理施設、食品製造企業、エネルギー関連企業等、廃棄物系バイオマスを出す企業や団体、バイオマス・エネルギーを使いたい企業や団体などが計画に参画してきました。

計画途中、金融危機などの影響もあり資金調達が困難になったりしたこともあるそうですが、計画を変更してようやく完成を目前にしているとのことです。このバイオガス・プラントを建設する際には、周囲への悪臭が懸念されており、臭いの問題については徹底的に対策を講じているそうです。脱臭塔があるのはもちろんのことですが、排ガスの煙突も基準よりはるかに高く設計(95m)しているそうです。家畜排泄物の搬入も密閉した室内で行い、臭いが一切漏れないようにしているとのことでした。

スラリーや汚泥を入れて発酵させるタンクや消化液をいれるタンクなど、施設内には多くのタンクがありますが、すべてのタンクの状態はさまざまなセンサーによって管理されていて、常に状態を最適化できるようなシステムが組まれているそうです。また、畜産農家のスラリータンクにもレベルセンサーがついていて、ある一定の量までスラリーが貯まると自動的に収集車のルートに組み込まれるようになっているということです。

上の図はプラントのマテリアルフローがかかれています。すべて家畜単位(DE)とN(窒素)、P(リン)で換算されています。消化液は遠心分離され固形分は焼却してリン酸を取り出す設計になっています。リン酸は肥料原料として使われる他、工業原料として使われるそうです。世界的にリン酸資源の枯渇がいわれているなか、リン酸を回収して効率的に使用することを念頭において設計されています。消化液は70℃で1時間滅菌してから農家に搬送されるということでした。農家では非効率の高い肥料として化学肥料の代替として積極的に使い、経済的メリットも出していくとのことでした。

生産されるバイオガスの1/3は隣接する熱利用公社が使い、1/3は17km離れた熱利用会社にパイプラインで運ばれて利用されるとのこと。この施設では1/3のバイオガスを熱利用と発電に使っているそうです。もちろん地域暖房にもしっかりと使われています。

施設はさまざまな受益者が応分を負担して、それぞれに経営責任を負うシステムをもって運営されるようです。実際の稼働はこの春からかということですが、設計どおりに動くか、今度、あらためて見に行きたいと思います。 なお、この施設の建設費は3億5,000万DKKとのこと、日本円では50数億円に相当します。日本ではこの金額で建設するのは難しいかもしれません。

ちなみに建設費に補助金利用は一切ないそうです。 我々がこのプラントを訪問した翌日、地元の新聞に掲載されたそうです。(なんて書いてあるのかはわかりません。)


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