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北海道の酪農DXを考える会

北海道協同組合通信社が発行する酪農雑誌「デーリィマン」の2024年12月号の特集「視点2024 スマート酪農への期待と課題」に、「北海道の酪農DXを考える会」に関する記事を書きました。

今月、中央酪農会議はこの10月の調査で全国の酪農家が1万戸を割ったと発表しました。実に5年間で1/4(24%)の酪農家が営農を中止したとのことです。前年同月比で府県で6.7%の減少ですから、最近はさらに離脱が加速しているようです。

北海道は前年同月比で4.4%の減少ということですから、府県に比べれば減少率は低いと言えますが、4.4%は決して低い減少率ではありません。

日本農業新聞より

酪農家は減少しているけれど、国内の生乳生産量は維持されています。それは、酪農家の規模の拡大や効率化、乳牛の育種などで生産性が高まっているからです。しかし、それには限界があります。

近い将来、国産の牛乳や乳製品が入手できなくなる日が来るかもしれません。
それは牛乳に限らず、穀物や野菜でも同じことです。農業者が激減しているからです。食糧危機が迫っています。

人類はこれまでも食糧危機に晒されてきましたが、その時代の最新の技術を使って、危機を乗り越えてきました。

1960年代以降に世界は人口爆発と言われる人口の急増があって、食糧難とされてきましたが、小麦などの多収品種の開発や肥料や農薬の普及によって、危機を回避しました。その後も遺伝子組換え技術などによって農業の生産性を高めてきました。それが「緑の革命」であり、農業のイノベーションでした。

最近は、リジェネラティブ農業(言いにくい)がはやっているので、生産性追求の農業には賛否はありますが、それについて論じるのは別の機会にしましょう。

今度の酪農家、農業者の減少による食料危機はどのように乗り越えたら良いのでしょうか?

もう長いこと食料自給率は40%を切っている日本では、食料の輸入がいちばん効果的です。しかし、日本の経済成長は鈍く、円安も続いています。新興国が著しく経済成長する新たな世界で、これまで通り安定的に食料を輸入することができるのでしょうか?

外国からの食料の調達は世界の政治、経済などの情勢の変化によって、安定性を維持するのは難しいものです。自国内の農業資源を最大限に活用して、農業生産性は高めなければ、食料危機をを乗り越えるのは難しいでしょう。

では、次の農業イノベーションは何かと言えば、情報通信、情報科学だと予測しています。いわゆる、デジタル・トランスフォーメーション(DX)です。

NRIのWebページでは、DXを下記のように定義しています。

企業が、ビッグデータなどのデータとAIやIoTを始めとするデジタル技術を活用して、業務プロセスを改善していくだけでなく、製品やサービス、ビジネスモデルそのものを変革するとともに、組織、企業文化、風土をも改革し、競争上の優位性を確立すること。(読み:ディーエックス)

NRI

つまり、AIやIoT、ロボティクスなどのデジタル技術によるイノベーションです。あらゆるものやことをセンサで計測し、インターネットに接続して、データを活用して業務の効率化や最適化を図ります。ロボットや作業機械の制御や自動化などを行う技術です。

農水省では、これを「スマート農業」と称し、今年の6月に「農業の生産性の向上のためのスマート農業技術の活用の促進に関する法律」(スマート農業技術活用促進法)を成立させています。

当然、酪農分野もスマート農業の対象となるわけですが、酪農分野では参画している既存事業者が少ないのが現状です。例えば、搾乳ロボットは国産のものはなく、欧州メーカのものばかりです。日本は産業ロボットでは世界的に高く評価されていますが、日本の酪農業には参入の機会がなかったようです。

日本の縦割り行政の弊害なのか、日本の農業には、製造業等で活躍している世界的な大企業、あるいは技術力のある町工場の技術はあまり入っていないようです。

農業系の大学などでも、最先端の情報科学を研究している先生は少なく、工学系の先生も農業向けの開発をしているという話はあまり聞きません。

来年度からスマート農業に大きな予算がつけられることになると思うのですが、果たして農家、農業経営者にとって使い勝手の良い技術開発はできるのでしょうか?

農業生産のタイムスパンは、数ヶ月から1年、場合によっては複数年の場合もあります。農家は毎日、同じ仕事をしているわけではなく季節によって作業が異なります。ある農作業を効率化しようとしても、1年に数週間しかその作業がなければ、設備を導入しても極めて非効率な結果となることは明白です。

今、他の業界等で提供されている、ほぼ完成された技術を農業用にカスタマイズして導入するのが良いと思いますが、どうも、パッケージとして完成されたものを提供しようとして失敗している事例が多いように思います。

ところで、酪農の仕事の場合、畑作とは異なり、搾乳などは年間を通じて、毎日同じ作業が続きます。しかも、搾乳は朝、夕の2回行われています。作業頻度が高いところに新たな技術を導入するのは費用対効果が非常に高まります。

今、いくつかの技術開発のPOCを行っています。

POCとは、Proof of Concept (概念実証)のことです。
既存の技術などを組み合わせて、その効果を可視化する作業であり、現場への普及の前段階に相当するものです。

例えば、汎用型のアームロボットを用いて、パラレル型のミルキングパーラー(搾乳室)を想定し、牛の後肢の間から搾乳器を侵入させて、乳頭にコンタクトできるのかという実験を行いました。

搾乳器を把持するためのロボットハンドを3Dプリンタを使って作成し、深度カメラで乳房の下部から乳頭を撮影して位置を特定し、迅速に搾乳器をはめることができました。

今できているのはここまでですが、これで搾乳ロボットを作ろうというのでありません。これぐらいのレベルのことが、これぐらいの予算で実現できるのですが、この先はどのような開発をすべきですか?と議論のテーブルに乗せることを目的としています。

製品として搾乳ロボットを購入すると、それに見合った頭数にする必要があり、場合によっては牛舎も建て替えなければなりません。非常に大きな投資になってしまいます。

完全体としての商品やサービスをあえて作らず、普及の手前のところで現場の状況を聞きながらカスタマイズするのが、現場の生産性を短期間で高めるためには必要だと考えています。

「北海道の酪農DXを考える会」では、そのようなPOCの成果をテーブルにあげて、幅広い関係者との議論の場となれば良いと考えています。

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