【奢られ飯備忘録】串カツ、揚げ物はいつまでも食べていたい
私の通学路の途中には、一棟の高級タワーマンションが建っている。
平日は週4回、朝と夜にその道を通る時必ず見てしまうのが、マンションの住人であろう人々の姿である。
私のような庶民とは住む世界が違うのだと否が応でも分からされてしまう。現実は厳しい。幼い子が母親と共に楽しそうな様子でエントランスに入っていく様子を見ると、横たわる経済格差に煮えくり返りそうな気持ちになる。いい歳してなんて心が狭いのだろうか。
私は関東の田舎に住む大学生だ。なかなかの時間をかけ都内に通学し、なかなかの時間をかけて帰宅する。友達はおらず、一日中誰とも話さないこともザラだ。文章を書くことは嫌いでは無いから、今こうしてキーボードを叩いている。時代のせいか、もう「筆をとる」ということは出来ない。昔は罫線が引かれたノートに小説を書いていたな、と突然懐かしく思い出された。
私は大学生として学校に通っている他、飲食店で接客のアルバイトをしている。それに加え、学校帰りやバイト帰りにおじさんとご飯を食べに行く、という仕事のようなことをしている。そのお礼にと、金銭を頂く。
ここで誤解のないよう予め記しておきたいのだが、これは巷を騒がせた𓏸𓏸ちゃんのようなものとは全く異なるものである。恋愛を匂わせる訳でもなく、また嘘をついて騙している訳では無い。また、身体的な関係になることも絶対にない(というかしたくないので)ものであるということも、強調しておきたい。
金曜の夜、私は都内のとある駅に降り立った。さすが東京と言うべきか、通勤ラッシュの時間になればどの駅でも大量の人が降りどの駅でも大量の人が乗りこんでくる。いつまでも解消されない満員状態から抜け出した時、通り抜ける風の涼しさをようやく感じることが出来た。
階段を登り、改札を出る。私は自分ルールでエスカレーターやエレベーターを使わないと決めているため、乗りたい人で長蛇の列を作っているエスカレーターを横目に足早に階段へと進む。
駅を出ると、約束の時間にはまだ少し早かった。これまたさすが東京と言うべきか、多くの人が誰かを待っていて多くの人が誰かを探している。地元ではなかなか見られない光景だ。至る所で、合流し盛り上がるサラリーマンやOLの方々を見ることが出来た。
住宅街ではなく多くの店が集まるその駅では、これから行く飲み屋を探す人や既に予約した店へと向かっていく人々で溢れていた。そんな彼らに声をかける居酒屋のキャッチの人達で、駅周辺の盛り上がりは形作られていた。
今から約束している飲食店に行っても、少し早いだろう。私も多くの人に紛れて少し散歩することにした。
一人でいると絶対に居酒屋の勧誘をされることは無い。寂しく思いながらも、一軒一軒中を流し見るようにしながら進んでいく。餃子の王将を見つけて、何となく餃子が食べたくなる。かなり単純な正確なので、見かけたもの全てが美味しそうに見えてしまう。
駅周辺を彷徨い始めてしばらく経った頃、メッセージの受信を知らせる通知音が響いた。見ると、今日約束している相手からだった。到着したとの事だったので、店の前に向かう。
駅から離れていないその店は、誰もがよく知る「串カツ田中」である。
本格的な串カツ、でも変わり種も多くある…ということは、事前調べが大好きな私が前日にGoogleで知り得た情報だった。なんと、クッキーの串カツがあるらしい。夢でしかない、と期待が膨らむ。
早速色々頼む。まずやってきたのは、気になっていたクッキーを含む定番系の串たちだ。豚や牛、チーズ、ラム、そしてクッキー。最初に食べるものは王道の肉だろう、と頭の片隅で思いながら、迷わずクッキーに手を伸ばした。
美味すぎる。オレオのようなクッキーを揚げているようだが、揚げ物が不味いわけが無い。私は思考がデブなので、揚げているものが無条件で大好きである。
といっても、ポテトだけはあまり好んで食べない。しかし肉やチーズ、ドーナツのような油があってなんぼのもの達のことはは愛してやまないのだ。
以前台湾に行った際、アイスを揚げた「揚げアイス」なるものを食した。それはアイスの冷たさと油の温かさ、そして油のサクサク感が相まって最高だったのだが、クッキーの揚げ串を食べた時、その情景が思い起こされた。
甘いものと油のサクサクとした感じ。デブなので嫌いなわけが無い。甘いものの揚げ物が不味くないことはドーナツやチュロスで証明されているのだが、あれらとは違う本当に「食事向けであろう」串に甘いものがここまで合うとは。美味しすぎて、食べながら追加でもう一本注文する。
他の串にも手をつける。チーズはかなり塩気が効いていて、ああお酒に合いそうだなと思った。私はお酒を年齢的に飲まないが、おつまみは大好きなので、これも食べながらではあるが追加する。
牛と豚の串を口に運ぶ。私は豚の串の方が好きだった。牛でも豚でも私は脂が好きなのだが(牛ならカルビ、豚ならバラ肉が美味しい)、串の牛は固めであったため豚の方が好ましかった。とはいえ、牛も美味しいのでこの後追加することはもう言うまでもない。
肉の中で最も美味しかったのは、恐らくラムであった。ラムの肉の独特の味に胡椒が効いている。私はラムが好きなので迷わず頼んだのだが、胡椒の濃いめの味がラムの味を引き立てていた。また油のおかげで、もはやなんだって美味しい。
第2陣には、期間限定と書かれていたキットカット串が大量に届いた。キットカット単体ではあまり食べないため期待をしていなかったのだが、バナナ&キットカット串を食べて目が飛び出る思いをした。
うまい。うますぎる。バナナとキットカットの間にホイップクリームが挟まっており、これが甘さを加速させている。そしてそれを包み込む油の皮。なぜだか、油で揚げられているだけで味が何割にも増されている気がする。サクサクとする食感。美味しすぎて、トータルで5本ほど食べている。これの抹茶味も限定であったのだが、そちらも5本ほど頂いた。数量限定と書かれていたのだが、迷惑になっていなかっただろうか、と冷静になった今なら考えられる。
この他に、チュモッパも頼んだ。そもそも串カツ田中に行きたくなった理由は、公式インスタで見たチュモッパの動画だったのだ。具が入ったすり鉢が運ばれてきたので、それをまぜあわせおにぎりのように握る。初めて作ったが、たくあんとマヨネーズ、ゴマやのりの味が美味しく何個でも食べたくなる味だった。
その調子で食べ進めること1時間半、ラストオーダーと言われてしまう。最後にデザートの求肥のバナナ包(マスカルポーネクリーム入り)を頂いた。求肥はほぼ初めて食べたが、マスカルポーネクリームと合っていて美味しい。串カツ田中に来たの初めてだったが、全ての食べ物が美味しく、食べる手が止まらなかった。
串をおそらくトータルで30本ほど頂いた。1本200キロカロリーだとして…と考えると頭が痛くなる。帰り道を数駅歩くことにして、現実から目を逸らすことにした。
料金は伝票を見せて貰えなかったので分からなかったが、恐らくまあまあ行っていただろう。その証拠に、経済事情からこの日お会いした人から別れを告げられている。串カツを食べる時は事前にとんかつでも食べるべきかもしれない、と冗談が頭に浮かんだ。
・串カツ田中
ご馳走様でした。