【短編】心凪いでなお

森本雄介もりもとゆうすけの噂は、入学前から聞いていた。

その噂とは、二年前劇場公開された『パイプ-Pipe-』という映画にまつわるものだ。
当初、大物映画監督である富樫慶とがしけい制作の映画だという発表がなされていた。しかし、試写会を終えた富樫は、報道陣にこう言った。
「これは、俺の映画じゃない」
そして彼は言ったのだ。これは、ある高校生の作品だと。

いつしか、森本雄介こそがその高校生だという噂が巻き起こった。森本は当時、自主制作映画をネット上で公開していた。その完成度の高さから彼の名前が浮かび上がったのだ。

この大学に来た目的のひとつが、森本だった。
彼と映画を撮りたい。彼に真相を聞きたい。
大学に入学して二ヶ月。ずっとチャンスを窺ってきた。
今、目の前に森本がいる。

「金村…だったっけ？なんで俺をつけ回すんだ？」
そう言った森本は、講義室の禁煙というパネルを撫でながら、煙草に火をつけた。僕は隣に座った。
「うん、金村聡かねむらさとしだよ。森本くん、僕と映画を作ろう。『パイプ』は君の映画なんだろ？」
唐突だな、と彼は言ってくすくすと笑った。そのあとで急に真顔になって
「俺の自主制作映画、タイトルを覚えているか？」
と言った。僕は少し考えて答えた。
「『ピーナッツ・シンドローム』、『アイムハングリー』、『プロト・プロト』、『エナジー・ロスト』だよね」
「…綴りは？」
僕は講義室の机に、鉛筆で書いた。

Peanuts Symdrome
I'm hungry
Proto Proto
Energy lost

「もうわかったろ」
「じゃあ、『パイプ』を作ったのはやっぱり…」
西日が差し込む。森本の顔はそれに照らされて、表情が読み取れない。
「俺だよ。俺が『パイプ』を作った」

数人の女子学生が、大笑いしながら廊下を歩いていく。その後に、静寂が訪れる。講義室には、僕たち二人しかいない。
「それだけじゃないぜ。富樫慶が日本アカデミー賞を受賞した作品、公開は俺たちが中学生の頃だったな」
「うん。たしか…『多数決』」
「これ、読んでみな」
そう言って森本が僕に手渡したのは、ノートだった。ページをめくる。『多数決をしましょう』と題された物語。ストーリーは『多数決』とまったく同じ。
「…これって、まさか」
「俺が小５のときに書いた。富樫は、それをパクった」
その後に綴られていた物語たちは、タイトルこそ違えど富樫慶の作品と同じストーリーだった。途中に自主制作で公開した４作品があり、最後に『パイプ』があった。
「でも、どうして富樫は森本くんの作品を…」
「父親だからだ」
「え？」
「『森本』は母方の姓なんだ。高校一年で両親が離婚するまで、俺は『富樫雄介』だった」

続く（続かないけど）

あとがき
この『心凪いでなお』というタイトルにぴんと来た方、もしいたらあなたは凄い。中長期ナル読者として認定されるだろう。
これは『正しきレモン』という短編の中に登場した漫画『心凪いでなお』をノベライズ化した（という設定の）ものだ。皆様、覚えているだろうか。出涸らしレモンが３話まで見て読むのをやめたあれである。

タイトル作っておいてアレなので書いてみた。続きについてはたくさんの希望があれば書くかもしれないし、書かないかもしれない。一応話は作ってあるけど、自信はない。これっぽっちもない。

ちなみに『森本』『金村』はそれぞれ、日向坂46の森本茉莉もりもとまりぃさんと金村美玖かねむらみくさんからお借りしました。
茉莉ちゃん。ときどきアイドルを越えるよね。令和の世で頭に金だらい落とされるアイドルがいるとは思わなかった。TIFの３期生ライブ見に行きたかったよ～。これからも応援してます。絶対にもっと活躍すると思う。バラエティもバリバリいけるはず。
おすし（金村さんの愛称）。ネガティブなところもあるのに、自分でたくさん悩んで前に向かっていこうとする姿、尊敬してます。尊敬する人物を訊かれたら、必ずあなただと答えている。カメラの技術の凄さにも感動してる。アイドルとしての輝きは勿論だ。全てにおいて、手を抜かず向き合う、素敵な人。ずっと応援してます。

さて、映画部の学生の話を書いているが、僕は普段あまり映画を見ない。精神的なアレで集中力が続かないのが主な理由だ。とはいえ、創作物をたくさん見たい年頃なので（冗談）、おすすめの映画があれば教えていただきたい。アニメでもいい。国も、ジャンルも問わない。

では、感想やら何やらお待ちしています。