道を間違う
一時期、『ハスキーボイス』に憧れた。
僕の声は、お世辞にもいい声ではない。なれるのなら、今なら高橋一生さんのような声になってみたい。だが、声帯は僕の望みに応えてはくれない。
そんな僕は以前、ハスキーボイスを手に入れるために必死になった。そうして、手に入れるための道を間違えた。
ハスキーボイスに憧れたきっかけとしては、音楽が挙げられるだろう。ミュージシャンには、かっこいいハスキーボイスを持つ方が多い。聴いてるうちに、僕はこう思ったのだ。
「かっこよく歌い上げて、モテたい!!」
…と。
モテるか否かは、僕にとって重要なことである。
圧倒的なまでにモテない人生だった。今辞世の句を書くなら
『モテたくて 嗚呼モテたくて モテたくて』
であろう。そこしか考えてない時点でモテないのは確実なのだが…。
あれ、何の話をしていたんだっけ?
そうだ、ハスキーボイスだ。いけない、忘れるところだった。
というわけで、僕は音楽をやっている友人にどうすべきかを相談した。
友人は真顔でこう言い放った。
「度数の高い酒でうがいするといいよ!」
そんなはずないだろ!
と今ならば言える。だが、あの頃の僕は今よりも更におかしかった。
「そうなのか。やってみるよ、ありがとう!」
そう言って、テキーラを買って帰宅した。
家に着いて、さっそくうがいをした。
だが、僕はここで悩んだ。
吐き出すの、もったいないよな……?
貧乏性である。酒を無駄にすると、ディオニュソス(酒の神。バックス・バッカスとも)に祟られるという。先輩はそれで大学を追い出された。勿論、ほんのジョークだ。
というわけで、飲み込んだ。汚いとは思う。自分でもちょっと嫌な気持ちになった。そして、気付いた。
普通に飲めばよくない?
そして、普通にテキーラを(ストレートで)飲んでいて気付いた。
ハスキーボイスじゃなくて、酒やけになるんじゃないか?
僕が目指したのは、一流歌手のようなハスキーボイス。だが、酒を飲み続けてなるのは椿鬼奴さんのような、酒やけボイス(鬼奴さん、すみません)。
……なんか、違う気がする。
僕はそれ以来、酒でうがいはしていない。テキーラは、全て飲んだ。
コロナが猛威を振るっていた頃、ビール大好きな親戚(おじさん)が「(体の)内部消毒だ」と言ってビールを飲みまくっていた。
馬鹿だなあ、と内心思っていたのだが、友人(女性)も同じことを言っていて、僕の方がおかしいのかと悩んだ。
テキーラうがいなら、ギリギリ消毒になる……はずないか。というわけで、消毒目的でも推奨しない。というか、普通やらないよね。
ハスキーボイスへの憧れは、未だにある。
だがそれ以前に、純粋に歌が上手くなりたい。数年カラオケに行っていない身としては、今どのくらい歌えるのかも不明だ。デスボイスって、実生活で使わないから…。
楽しく歌いたいが、まずは健康にならねばならぬ。
ファルセットがろくに出なくなったことを確認して、このエッセイを終える。すげえ悲しい。