キンモクセイ盗賊団の池【毎週ショートショートnote】
「兄貴、もう的を変えましょうや」
兄貴は、盗賊団『秋の香』の首領。俺はたった一人の部下だ。
江戸の頃生まれたこの盗賊団も、今では落ちぶれちまった。
それもこれも、『キンモクセイしか盗まない』という流儀のせいだ。
俺達は、池のそばのぼろ小屋を住処にしている。
昔はここに盗んできたキンモクセイを植えていた。今残っているのは、その香りのみだ。
「いいや、的は変えねえ」
兄貴は言った。
「だけど兄貴!近所にキンモクセイがないからって芳香剤を集めても仕方ねえよ!」
令和の世になり、庭を持つ家庭も減ってきた。盗む物に窮した俺達は、キンモクセイの芳香剤を盗んでいた。
「たまには金品盗んだって、罰は当たらねえはずだ!」
仏様に怒られそうな台詞ではある。だが、芳香剤など盗んでも腹の足しにもならないのだ。
「…わかった」
兄貴がしかめっ面で言った。
「兄貴…!」
「池のほとりが物悲しいから、何か植えるもんを盗もう」
その日俺は、兄貴と大喧嘩して足を洗った。
了(408字)
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あとがき
芳香剤はミントかラベンダー派。
noteで出会った素敵なオツトメ小説(これで誰の小説かわかりそう)に感化されてから、ずっと書いてみたかった盗賊モノ。
裏お題を見て小躍りしたものの、ギャグ小説になっちゃった…。
楽しんでいただけたら幸いです、はい。
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