逢いたい菜【毎週ショートショートnote】
種苗店で「逢いたい菜」なるものを見つけた。
店員いわく、この菜花が花を咲かせるまで育てれば、一番望んだ再会ができるという。
「万が一枯れさせると…」
「絶縁する、とされていますね。まあ、あくまで迷信ですので」
僕はその迷信を信じ、購入した。
レンタルした畑の一角に「逢いたい菜」を植えた。追肥や害虫駆除。様々な世話をした。
こうまでして再会したいのは、かつての愛犬だ。
もう一度だけ、会いたかった。
その日は豪雨になった。僕はニュースの警告を無視し、畑へと向かった。逢いたい菜は、今にも水没しそうになっていた。
「もう少し、もう少しなんだ…」
轟音と共に斜面が崩れ、僕の視界は真っ暗になった。
死ぬ。そう思った。
逢いたい菜を握りしめた右腕は折れているようだ。
蕾が、めりめりと音を立てた。仄かな熱を携え、黄色い花が咲いた。
「わん!」
心地よい夢を見ていた。視界に光が差し、人の叫び声がする。
僕の頬を撫でるあたたかな舌は、誰のものだったのだろうか。
了(410字)
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あとがき
今回はふざけません。
最初に断っておくが、豪雨災害の際は河川や畑を見に行ってはいけない。それで死んだ方を知っているので、本当にやめてほしい。
それでも、誰かとの再会を夢見る気持ちはわかる。
…え、僕ですか?
再会はいいから推しに会わ(以下略)
コメディ以外を久々に書いたので、これが面白いんだかどうなんだか、もはやわからない。勘をとりもどせ!!(愛ではない)
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