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【SS】T-REXの前足

「いつも一言多いって言われるんだよな」

「まあ実際多いもんね」

僕の嘆きに、君はさも当たり前かのような返事をする。テレビでは年始の大型特番。大嫌いな大物タレントが騒いでいる。
おせちに飽きた僕たちの夕食は、冬季限定のカップラーメン。それを啜りながら君は言う。

「実際さ、蛇足ばかりだし。あなたと暮らせてる私ってすごいと思うよ。よく耐えてる」

「自画自賛だね」

「当たり前だよ。あなたは褒めてくれないんだから」

少し物足りなくて、僕は立ち上がって冷蔵庫に向かう。中を覗き込んでみると、おせちの残りがあった。

「食べてもいい?」

僕が訊くと、君は特番を見たまま「ん」と返事をした。

「どうしたらさ、一言多いの治せるかな」

「簡単には治らないでしょ」

君は黒豆を箸でつまみあげながら笑う。僕はため息をついて

「『一言多い』っていう言い方が良くないよね」

と言ってみた。

「…言い換えてみようか」

僕らはしばらく悩んだ。君がふと

「じゃあさ、『僕、ティラノサウルスの前足なんです』は?」

と言って笑った。

「どゆこと?」

「ティラノサウルスの前足って、何のためにあったかわからないんだって。だから、どう?」

「…僕、存在を全否定されてない?」

僕がそう言うと、君は

「まあ、他の誰が否定しても私は好きだよ。ティラノサウルスの前足」

と言って、そっぽを向いた。
明日からも、こうして二人で生きれたらいいな。

了(573字)


あとがき

恐竜図鑑をつまみに酒を飲むと、こういうショートショートが出来上がります。


僕と恐竜の組み合わせは、問題作しか生まれないのだろうか。
前作『カノジョは翼竜』もなかなかに問題作だった。

というか、間違いなく僕の問題作シリーズ(今初めて命名した)は、ここから始まった。最近は意図してこういう作品を書いている気もする。誰か一人でも気に入ってくれたなら、僕の一年は報われるかもしれない。書くのは楽しい。

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ナル
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