あの頃、酒飲みは。
飲酒するたびに思い出すことがある。
僕は普段、酒もつまみも買い置きを常備している。
普段は酒だけを飲む。たまにつまみを食べるが、その頻度は低い。
盛岡時代のある日、僕は夕方5時から飲んでいた。家で、一人で。
誰かとビデオ通話しながら、とかなら多少は華があるのかもしれない。だが、僕の酒の相棒は大相撲中継であった。当時は白鵬、日馬富士、鶴竜の3横綱が猛威を振るっていて…いや、それはいい。
大相撲中継を見ながら、夕方5時にカップ酒をあおる…
昭和初期生まれか。
今思うとなかなかにやばい。クレイジーだ。大学生(当時)のすることじゃない。今はこんな暮らしは送っていないのでご安心を。
さて、大相撲というものはだいたい午後6時には終わる。いつもなら適当に作ったものを軽く食べ、晩酌を再開するのだが、その日は違った。
「コンビニおでんが食べたい」
そう思ったのが、全ての始まりだった。
当時僕が居住していたアパートのすぐそばには、コンビニがあった。
というわけで、夕方6時。僕は11月の寒空の下、サンダルでコンビニに向かった。
11月の盛岡は、ほぼ冬である。酔いのさめるほどの冷たい風。だが、約1時間しっかり飲んだ僕の酔いは、なかなかにさめなかった。
コンビニに辿り着いたとき、僕は思った。
「何買いに来たんだっけ?」
これが(1時間カップ酒を飲んでいた)大学生の思考であるとは、誰も思うまい。どう考えても物忘れを心配する年頃の発言である。最寄のコンビニ(徒歩5分)に行くまでの間で、何を買うか忘れる。
面白いのは、「何を買うか忘れた」ことを覚えていることである。酒飲みはみんなこんなもんだ(多分)。
さて、そうして僕は新しいカップ酒とあたりめを買った。
再度書いておこう。当時は大学生である。
そうして帰路についた。足取りがはっきりしていたこと、当時の同級生に会ったこと。そういうことを覚えているのも、酔っ払いの不思議である。
アパートの鍵を開けたとき、僕は気付いた。
おでんだ、おでんを買うはずだった。
買った酒とあたりめを玄関において、僕は再び寒空の下へ繰り出した。
だが、同じコンビニに行く勇気はない。「あの酔っ払い10分でまた来たよ(笑)」とか言われるだろうことはわかっていた。それは避けたい。
というわけで、反対方向にあるコンビニ(徒歩15分)まで歩くことにした。
さあ、結論を先に書いておこう。
次は自動ドアをくぐる前に、何を買うんだったか忘れていることに気付く。
これが真正の酒飲みだ。若い読者の皆さん(いるだろうか)。決してこうなってはいけない。肝臓や膵臓の心配も必要だが、それ以上に周囲に妙な心配をかけるから、こうはならないでくれ。
その店内でも思い出すことはなく、僕はビールと唐揚げを買った。レジ横でおでんを売っていたこと。それをしっかり覚えているのにもかかわらず、なぜ買わなかったのだろう。
そうして帰宅。
見たかったバラエティは既に始まっていて、体は芯まで冷えていた。
飲み直したのは言うまでもない。
注
深酒は絶対にやめましょう。
そのせいで苦しむことのないように飲むのが、正しい飲み方です。