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【夏の残り火】ふいうち

不意をついて、触れた。

佐々木君は私のバイト先の後輩だ。一緒のシフトに入る機会が多く、自然と話す機会も増えた。そのうちに好きな映画や漫画が一緒だとわかり、私たちは友人になった。
やわらかそうな癖っ毛に、長いまつげ。身長は私より少しだけ大きくて、いつも少しだけ眠そうにしている。付き合っている子がいる、と以前言っていたし、私にも好きな人がいた。私たちは「友人」だから、何の問題もない。

私が好きだった人に振られたのは、夏も終わろうとしている頃だった。
タイプじゃない。それだけを言われて、私の恋は終わった。
泣きながら、川沿いの道を歩いた。歩いても歩いても、家にたどり着かないような気がした。
「山口さん?」
聞き覚えのある声に振り返ると、佐々木君がいた。一人で花火をしていたのだという。私が泣いていた理由は訊かなかった。
「線香花火、一緒にやりませんか。」
佐々木君はいつもみたいに笑う。少しの静寂の後、私の花火が先に落ちた。
「…落ちちゃった。」
そう言って佐々木君を見る。そのとき、佐々木君の唇が、私の頬に触れた。驚く私を置いて、佐々木君は立ち上がる。
「…また、花火しましょうね。」
遠ざかる佐々木君の背中を、私は見ていた。


あの日、泣いている山口さんを見て、どうしていいかわからなかった。
頬にキスをした瞬間、やってしまった、と思った。あれ以来、シフトはずらした。付き合っていた子とはお別れした。こんな気持ちのまま、別の誰かとは一緒にいられない。
「…何してんだろ、俺。」
きっと山口さんに嫌われた。でも、これでいいのかもしれない。あんなことをしてしまった。このまま、バイトも辞めてしまおう。
スマホが鳴る。山口さんからのLINEだった。
怒られる。もしくは、訴えられるのかもしれない。おそるおそる開く。

「また、あの河原で花火しませんか?」

俺は花火を買うために、急いで家を飛び出した。
(777字)

ちょっとだけあとがき

藤家秋さんwith大橋ちよさんの企画に参加させていただきます。
僕としては初恋愛小説でした。わかる人にはわかると思いますが、日向坂46のお二人(「佐々木」姓が二人いるので「お三方」のほうがいいか)から名字をお借りしました。書いてて、こんな恋愛、経験したことねえや…って泣きそうになってます。自分で書いておいて言うのも変だけれど、ふいうちって何、ねえ、何!?
花火の思い出といえば、高校生の頃、友達が振り回した花火で顔面を軽くやけどしたくらいです。一緒にいた女子に心配そうに顔を撫でられ、どぎまぎしたことが忘れられません。久しぶりに花火したくなったなあ、って言いながらビール片手の執筆でございました(これを書いている現在22時)。


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