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世界一しょぼいタイムスリップ【毎週ショートショートnote】

「タイムスリップ・450円~」の看板を見つけ、僕は立ち止まった。
胡散臭い。だが、もしあの頃に戻れるのなら―。

看板の案内に従って、路地裏へと向かう。
「和食・みたけ」の暖簾をくぐると、小柄な老人が座っていた。

「…ご注文は?」

「唐揚げ定食を…じゃなくて!」

「ああ、副業の方か」

老人はエプロンのポケットから妙な機械を取り出した。

「これを使えば、望む過去にタイムスリップできるよ」

「では、高校生の頃―初恋の人に想いを伝えたいのです」

「よろしい。780円」

僕は機械を掴み、老人に指定されたボタンを押した。

「後悔のないように」

老人の姿が歪み、僕の意識は遠のいた。


目覚めると、僕は「和食・みたけ」の前に立っていた。
どういうことだ。暖簾をくぐる。

「ああ、いらっしゃい」

「なんで…」

「この機械は気まぐれでね、ときどき失敗するんだ。そうすると、店に入る前に戻っちまう。しょぼいだろ?」

その後何度も780円を払ったことは、言うまでもない。


了(407字)

#毎週ショートショートnote
#世界一しょぼいタイムスリップ

こちらに参加しています。たらはさん、お久しぶりです。


あとがき
「みたけ」は盛岡市内に実在する地名である。学生時代の僕にとっては庭のようなものだった(冗談)。
さて、僕だったらいつの頃に戻ろうか。そう考え始めたらキリがないのだが、なんだかんだ言って戻らない気もする。苦しい日々ではあるが、今そばにいてくれる人たちを失いたくはないのだ。
ただ、細々とした瞬間に戻りたいことはある。ポイントカードだと思ってちいかわのカード(なんで財布に入れてたかわからない)を店員さんに提示した瞬間とか。消えてなくなりたかったもん、ほんとに。
他にもいろいろあるから、それは別のエッセイにしよう。

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ナル
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