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SaturdayNightSpecial【うたすと2】

「今日も出やがったな、ゾンビども!」
俺は銃を構えた。相棒のサタデーナイトスペシャル。ソリッドフレームのリボルバーは再装填に馬鹿みたいな時間がかかるが、こいつら相手なら問題はない。威力は充分さ。

SNS全盛の時代が終わって、SNSに溢れていた『インプレゾンビ』は、化け物になった。ありもしないインプレッションを求めて夜を彷徨う、真のゾンビに。
俺たちは今日、インプレゾンビの親玉『A5のメンズ』の討伐を命じられた。誰がそんなことを命じたのかって?さあ、俺は興味ないね。


「私はあなたのそれが…」
ゾンビが言い終える前に、俺はそいつを撃ち抜いた。
「それは私に幸福を得ます!」
後ろからゾンビが襲い掛かってきた。俺は咄嗟にカルビを投げつける。奴等はカルビとチョレギに異常な興味を示す。囮にはぴったりさ。カルビに気をとられたゾンビの頭を、吹き飛ばした。

「…だいぶ、減ったな」
『A5のメンズ』の住むという場所まで、あと僅か。俺は銃の手入れをし、用意を整える。
そのとき、女連れの大柄な男がやって来た。
いかにも『港区』な女。その隣には、濃い眉毛と端正な髭の男。目は真っ赤に染まっていて、口元には牙がある。
―奴だ。

「それはあなたに面白いです」
男がそう言った瞬間、恐ろしいほどのプレッシャーを感じた。間違いない、あれが『A5のメンズ』…。
隣の『港区』はゾンビなのか?
もし人間だとしたら救助しなければならない。ゾンビならば、撃つしかない。
俺は身を隠して、様子を窺う。
『港区』が口を開く。そこから発せられたのは、サレ妻の愚痴だった。
俺は戦慄した。
あれは、ゾンビ界のNo.2『サレ妻』じゃないか。
―どうする、どうする、どうする?


そのとき、連絡があった。組織の『暴露系』からだった。
「開示請求が間に合った。行け!」
俺はサタデーナイトスペシャルを握り締め、神に祈った。今なら、いける。

カルビとチョレギを投げつけた。地面に落ちたそれに、あいつらは惹きつけられる。
一斉に狙撃。『開示請求』は、増援が来たことを示す隠語だ。組織の総力を結集して、こいつらを倒すときが来たのだ。

狙撃で『サレ妻』は瀕死になっているようだ。『A5のメンズ』は右半身こそ欠損したが、まだ戦おうとしている。
俺は『A5のメンズ』の頭にサタデーナイトスペシャルを突きつけた。
「じゃあな、親玉。いんぷれっしょん、ほーみたい」
銃声が響く。長い戦いは、終わった。


ゾンビがいなくなったあの日、俺たちは生ビールとハイボールで乾杯した。それまで囮に使ってきた、ありったけのカルビを焼いて食べた。
残念なことに、この後でまたSNS全盛の時代が来て『インプレゾンビ』は復活することになる。その戦いのことは、またいつか話そう。

了(1115字)
#うたすと2

こちらに参加しています。

あとがき
この作品はこちらの曲を基にしています。

「サタデーナイトスペシャル」は、低品質で安価な小型拳銃のアメリカなどでの俗称である。ソリッドフレームは、シリンダーが固定されたリボルバー(回転式拳銃)のこと。詳しくは調べてほしい。なぜなら僕もさっき調べたばっかりでよく知らないから!

ちなみに、作中に日向坂46の曲名をぶっ込んでいる(正式名は『どうする?どうする?どうする?』)。めいめいセンター曲。いつか詳しく紹介する。させてくれ。

前回の『構文病』とはうって変わった、バトルアクション(のつもり)に仕上げてみた。ゾンビといえばあの有名なゲームがあるが、やったことはない。基本的に育成要素のあるゲームの方が好きだ。アクションが苦手、というのもある。運動神経もない。
タイトル、サタデーナイトスペシャルの大文字部分が「SNS」になってて、SNSへの壮大なアンチテーゼになっている…とか書いたけど、気付いたのはさっき。偶然にびっくりさ!
楽しんでいただけたら幸いである。書くのは楽しかった。

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ナル
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