【空想エッセイ】昨夜の話(8)
↑前作はこちら。以下本文。
「ナルさん、どうして最近空想エッセイ書かないの?」
一つ目小僧に尋ねられて、僕は返答に窮した。
「…書けないでしょ。首切れ馬に蹴られて夜行の目が潰れたとか。ぬらりひょんが西洋妖怪相手に大立ち回りしてたとか」
そう言うと一つ目小僧はにっこり笑い
「まあ、確かに。夜行の目はその日の夜には戻ったけどね」
と言った。
前回空想エッセイを書いてから、それはそれは色んなことがあった。
僕の身にもなかなかの出来事があったのだが、それは普通のエッセイで書こう。
妖怪たちにも、色んなことが起きた。
まず、ぬらりひょん。
彼はこの二ヶ月間、西洋妖怪相手の戦いに明け暮れていた。
彼一人で撃退したというから、未だに腕は衰えていないらしい。
疲れきってしまったのか、ここ一ヶ月は姿を見せていない。
夜行は、件の喧嘩の後は首切れ馬と仲良くやっている。
イッポンダタラのイッポくんであるが、果ての二十日に出会ってしまった猟師と激闘を繰り広げたらしい。今は各地の温泉を巡って、傷を癒しているという。
温羅くんは酒呑童子くんの説得を試みているが、なかなか上手くいかないらしい。この間遊びに来た彼は、疲れきっていた。
要は、みんな大変だったのだ。
「…考え事?」
一つ目小僧がこちらを見ている。
「うん。みんな大変だったなあって」
僕がため息をつくと、一つ目小僧は頷きながら
「ナルさんもさ、大変だったね」
と言った。
「僕も?」
「そう。丹生ちゃん卒業しちゃったし」
予想外の方向から傷口を抉られ、僕は呻き声をあげた。
「…そうなんだよなあ。新曲のMVに丹生ちゃんのいない悲しさといったら、もうさ…」
「『卒業写真だけが知ってる』でしょ?夜行がハマってたよ」
「夜行が?」
信じられない。お笑いにこそ詳しいが、アイドルの顔の区別さえつかない、あの夜行が?
「あとね、夜行紅白から櫻坂にもハマってるよ」
「夜行が、櫻坂に?」
ますます信じられない。どういう風の吹き回しだ。
「なんならね、乃木坂にもハマってる」
「夜行が!?」
信じられない、どういうことだ。テレビはお笑いしか見ないはずなのに、いったい彼の心境に何の変化が起きたというのか。
「玉置浩二が見たかったんだ」
その声に振り返る。夜行が窓を開け、恥ずかしそうに入ってきた。
「夜行」
「タイムテーブルで後半なのは知ってたんだが、他に見たいものもなくてな。最初から見てたら、ハマったんだ。坂道グループに」
「布教完了だね!」
一つ目小僧が大笑いしている。
「…それぞれのグループに推しが出来た。ナル、こういうのはいいな」
そっぽを向きながら夜行は笑う。僕も嬉しくなって、急いで彼のビールを仕度した。
了
あとがき
実に二ヶ月ぶり。
書きたくてうずうずしてた。他の創作にかまけて書かなかっただけ。
玉置浩二さん、リアルタイムでも見たが、録画してある。彼を越える歌うたいはいないだろう。彼の心が健やかでありますように。
さて、夜行の推しは誰なのか。ぬらりひょんやイッポくんにはいつ会えるのか。そういうところも含めて、また次回。