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【SS】コーヒー
コーヒーは冥界に繋がっている、と藤吉さんは言った。
カフェのテラス席を、低い冬の太陽が照らしている。藤吉さんの短い髪が冷たい風にひらひらと揺れていた。彼女は一口コーヒーを飲んでから少し寂しそうに続きを話した。
私の大切な人は、一緒にコーヒーを飲んだ日の夜に死んだ。
偶然だと思う?私はそうは思わないよ。
コーヒーは冥界に繋がっているの。私の大切な人を連れ去ってしまう。
僕がカップを持ち上げると、藤吉さんは「やめて」と小さく叫んだ。
「大切だと思ってくれてるんですね」
ジョークのつもりで言い、カップを下ろす。藤吉さんはため息をついてから、また一口コーヒーを飲んだ。
「…冥界に繋がっているとして。藤吉さんはどうして、今もコーヒーを飲むんですか」
「さよならを言うために」
「昔の恋人に?」
「いいえ、あなたに」
どういうことだろうか。僕は今こうして、藤吉さんの目の前にいるのに。
藤吉さんはまた一口コーヒーを飲んだ。
「…私がこの店のコーヒーを、このテラス席で飲んだときだけ、あなたはここに戻って来れる。思い出して、あなたは、もう」
赤色灯と月明かりがきらめいた夏の夜。
強い痛み、もう動かせない体で僕は――。
「今までありがとう。幻でも、幽霊でも」
「ええ。さよなら」
藤吉さんが最後の一口を飲み干した。僕の視界は真っ暗になった。
ショートカットの女性は、一人で何事か呟いてからテーブルに突っ伏して泣き始めた。長い時間そうしてから、もう一杯だけコーヒーを注文した。
店員がそれを持っていったとき、座席には誰もいなかった。一万円札ともう一枚「今までありがとう」という走り書きがされたメモが、伝票に挟まれていた。
コーヒーは冥界に繋がっていた。それは少しだけ昔の話。
了(711字)
あとがき
作中の『藤吉』は、櫻坂46の藤吉夏鈴さんよりお借りしました。
藤吉さん。多分、いや間違いなく僕は沼に落ちた。どうしようか、もうほんとに。かっこいい、可愛い、惚れる、本当に惚れる。僕の語彙が完全に死んだ。好きになる。なった。なる。なった。やばいもう本当にどうしたら(以下略)
この先も応援してます。もっと推していこうじゃないか。
コーヒーの深い色から着想を得た(そんな大層なものでもない)作品。前も書いたが、僕は今カフェインが本当にだめなので、カフェインレスコーヒーしか飲めない。
真面目な確認なのだが、精神的な不調を抱えている方にお伺いしたい。カフェインの摂取で不安が増強してしまうのは僕だけでしょうか。普通のコーヒー飲むと、あとですごく不安になるんだよな…。ほんと、家鳴りのひとつに泣き出すくらい。
作品としては、綺麗で怖いものが書きたかった。最初の一文がピークだった気がしないでもない。あれ思いついた20分前の僕は偉い。国民栄誉賞レベル。
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