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【短編】暗黒バイト

俺は昔から、女運が悪い。
初恋の人には二股をかけられたし、社会に出て初めて付き合ったのはマルチ商法の勧誘員だった。後悔はしてるが、みんな可愛かったのは認めざるを得ない。
それにしても、だ。

俺の正面には、後輩の莉奈りながいる。いつもと変わらず悪戯っぽく笑っている。大好きなパンケーキを食べて、ご満悦の表情。
幸せな風景だろう。
ただひとつ、莉奈の左手に俺の心臓が握られていることを除けば。


「先輩、死神とか信じます?」
今日の昼、映画を観た帰りに莉奈は言った。
「うーん、場合による」
「場合って、どういうことですか?」
「目の前に現れたら、信じるってこと」
映画は少女漫画の実写化作品で、なかなかの完成度だった。莉奈に誘われなければ観なかっただろう。感謝しなければならない。

「じゃあ、先輩。信じてくださいね」
「は?」
莉奈が言ったことの意味がわからず、俺は立ち止まった。
「私、死神になっちゃいました!」
莉奈は、舌を少しだけ出して笑い、ポーズを作った。
「…そういうキャラ?」
「違いますよ~。バイトです」
「バイト?」
「そう、闇バイトならぬ『暗黒バイト』です!」
莉奈は俺の手を掴み、歩き出した。その手は、とても冷たかった。

SNSで勧誘され、軽い気持ちで応募したという。こちらを見ずに、彼女は話し続ける。やけに明るい声。
「で、ターゲットが先輩なんです」
「え、俺死ぬの?」
「はい!呪われてるらしいですよ、33歳で死ぬ呪い」
「マジかあ…。報酬はいくらなの?」
莉奈はこちらを振り返った。頬を涙が伝っている。
「報酬より、もっと言うことないですか?悔しいとか、見逃してくれとか、呪いはどうにかならないのかとか!」
「あー…。それはない」
「なんで!」
莉奈は叫んだ。通行人が何人かこちらを振り返って去っていく。
「…ずっと、なんで生きてるかわからなかったから」
莉奈が食べたかったパンケーキ、食べに行こう。そう言った俺に、莉奈は悲しそうに頷いた。

行列に並んでいるとき、莉奈に連絡があった。何度か言葉を交わし電話を切った莉奈は、振り返って俺を見た。
「先輩のハート、ください」
莉奈が俺の胸に触れると、彼女のもう片方の掌に俺の心臓が乗った。痛みもないし、苦しくもない。
「…私から、神様にお願いしました。最後の望みを叶えてから、って」


そうして、俺達はふたり仲良くパンケーキを食べている。
「それ、他の人には見えないの?」
「私と先輩にしか見えません」
「そうなんだ。気味が悪いもんな」
莉奈は、じっとこちらを見た。そのあとでいつものように笑って
「そうですよね~」
と言った。パンケーキは、あと僅か。

莉奈が最後の一口を食べ終えた。会計を済ませる。
「…じゃあ、お別れだな」
ふたり並んで店を出た。外には煌びやかなイルミネーション。
「先輩」
莉奈がイルミネーションを見ながら立ち止まる。
「ん?」
莉奈の方を振り返る。そのとき、頬に莉奈の掌が触れた。
唇が重なる。
「…これが、最後の望みでした」
俺はその場に倒れた。莉奈は俺のそばにしゃがみこんで、俺の頬を撫でた。彼女の涙が、俺に降ってくる。

最後まで、つくづく女運がない。

…いや。最後だけは悪くなかった、かな。


先輩。
ホントは、二人で旅行もしたかったんです。盛岡とか、京都とか。宮崎ってのもいいですよね。
パンケーキもいいけど、他にも一緒に食べたかったものがあるんです。焼肉とか、油そばとか、色々。
ホラー映画なんかも、楽しかったかな。先輩は嫌いって言ってたけど、私は大好きでした。
ホラー映画も、先輩も。

そういえば、報酬の話。
お金じゃないんです。神様がひとつだけ、願いを叶えてくれるの。
私、お願いしたんです。呪いのせいで、今世では叶えられなかったお願いを。

来世はずっと、あなたと一緒にいられますように。



あとがき
『莉奈』は日向坂46の渡辺莉奈わたなべりなさんよりお借りしました。
りなし。モノマネスキルが高すぎる。その愛らしいキャラクターもアイドルセンスも凄まじい。日向坂を引っ張っていく存在になってくれると信じている。あと、センター曲『夕陽Dance』は、完全にツボでした。これからの更なる活躍を願っています。寒い日々が続きます。お体に気をつけてくださいね。いつまでも元気なりなしでいてほしい。
(これご本人が読んでたらびっくりだよね。その場合は関係者の皆様、是非お知らせください。勿論冗談です)

当初はコメディにするつもりで書き始めた。
結果その予定はどこへやら、悲しいラブストーリーになってしまった。とはいえ、個人的にはなかなかの出来だと思っている。繊細さと奇妙さの同居だけはできたと思う、とりあえず。
気に入っていただけたら幸いである。もしよければ、スキやコメントお待ちしています。

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ナル
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