忘年怪異【毎週ショートショートnote】
「知ってるか、部長の話」
同期の宮田が耳打ちする。僕も話したくてうずうずしていたところだ。
「ああ、知ってる。忘年会の後『全部』忘れたんだって?」
「そう。自分のことも、会社のことも全部」
僕たちは部長が『いた』デスクを見る。主を失ったそこには、封筒がひとつ置かれていた。
「なんだ、あれ」
宮田が立ち上がる。僕もあとに続く。封筒を手に取り、中を取り出すと紙が一枚。そこにはこう書かれていた。
『以下の人物は社内規則違反のため、記憶抹消と再度の教育を命ずる』
僕たちは顔を見合わせた。記憶抹消?
末尾には専務の名前。たまたま通りがかった専務に、僕たちは声をかけた。
「…そんなもの、知らないぞ」
怪訝そうな顔をして、彼は去っていく。
立ち尽くした僕たちの影が、長く伸びる。
「遠藤、宮田。どうしたんだ?」
呼びかける声に振り返る。そこには、先ほど去ったはずの専務。
「…専務?」
彼の手には、部長のデスクにあったものと同じ封筒が、ふたつ握られていた。
了(409字)
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あとがき
専務何人いるんでしょうね。
作中の『宮田』は元日向坂46の宮田愛萌さんから、『遠藤』は櫻坂46の遠藤理子さんからお借りしました。
まなもさんの名前をずっと使わなかったのには理由がある。まなもさんが現在作家として活躍なさっているからだ。作家として活躍目覚しいまなもさんの名前を、僕ごときの作品に使っていいのだろうか…と葛藤していたのだ。あのぶりっ子キャラは、奇跡。ハマると帰って来れない。これから先もずっと応援してます。
えんりこちゃん。最近、とあるきっかけで気になっている。これから推すことでしょう。応援してます。
個人的な話ではあるが、連載準備に手間取っている。その合間でこれとは違うホラーも書いてしまうくらいに手間取っている。そのホラーは明日公開する。僕のホラーで一番人気だった『目印』ほどじゃないけど怖いと思うので、お楽しみに。