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決闘年越しそば【毎週ショートショートnote】

発端は一人のタレントだった。

「年越しはね、そばじゃない。ラーメンですよ!」

そば屋店主・区界くざかい庄吉はこの発言に激昂した。生まれてこの方、年越しはそばと決まっている。それを法律で定めぬ国のせいで、こんな人間が育ったのだ。

区界はそのタレント――高松俊が所属する芸能事務所に、果たし状を送った。

「大晦日、除夜の鐘が鳴る頃。盛岡駅にてそばを用意して待つ」

高松はこの果たし状を冗談としてSNSで公開した。瞬く間に拡散され、当日の盛岡駅には人が殺到した。

駅前の広場に、二人はいた。
既に用意は整えられていた。
区界が長年作り続けた一品が、除夜の鐘と共に高松の前に置かれた。

「…いただきます」

高松がつゆを一口飲んで、すぐさまそばを啜る。
何度もそれを噛み締め、飲み込み、すぐさま区界に頭を下げた。

「…申し訳ない。完敗だ」

区界は勝った。
この瞬間「年越しはそば」が世界水準になったのだ。
人々はこの出来事を『決闘年越しそば』と呼び、区界を称えた。

了(408字・ルビ除く)


#毎週ショートショートnote
#決闘年越しそば

こちらに参加しています。たらはさん、今年一年ありがとうございました。来年もよろしくお願いします。

あとがき
『区界』は岩手県宮古市、『高松』は岩手県盛岡市の地名です。区界は県内随一の寒さを誇る場所。盛岡市藪川やぶかわ・宮古市区界がツートップである。どうかすると本州で一番寒いときがある。
今日は、しんしんと雪が降り続いている。ちなみに昼はそばだった。
大晦日は寿司の予定なので、年越しそばは食べない。
そういえば、年越しそばって年越しの前後どちらで食べるの?

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ナル
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