ユニーク輪唱【毎週ショートショートnote】

すっかり雪の溶けた山道を、私たち二人は歩いた。口数も友達も少ない君の唯一の趣味が、登山だった。

「歌でも歌おうか」

君が珍しい提案をしたので、私は驚きながらも曲を提案した。

「『森のくまさん』でも輪唱しようか」

「登山中に一番会いたくないよ」

「んー、『静かな湖畔』は？」

「カッコウ嫌いなんだよね。托卵だっけ。ひどいよ、あれ」

「えー。じゃあ、『かえるの合唱』」

「両生類無理」

私たちの間を沈黙が流れていく。どうしてここまでひねくれているのか。『森のくまさん』を歌ったからって、本物のクマが来るわけではないのに。

「…歌いたい曲、あるんだよね」

「えっ」

今日は本当に上機嫌なようだ。君はこちらを見据え言う。

「『マツケンサンバⅡ』を輪唱しよう」

「いや、どうやって」

私の呟きに、君は大声で笑った。結局『森のくまさん』を輪唱しながら、私たちは山頂を目指した。

このやりとりがSNSにアップされたことをきっかけに、私たちは輪唱する漫才師になった。

了（409字）

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たらはさん、今年もよろしくお願いします。
毎回楽しみにしてます。

あとがき

「漫才の世界はこんなに甘くないんやで」と、僕の心の中で西川きよし師匠がおっしゃっています。

とはいえ、最近はSNSの投稿をきっかけに人気になる人も多い。これもその一例である。実話じゃないけど。
というわけで、僕もいつか人気になればいいなという願いをこめた一作である（冗談）。
中原中也がSNSやってたら、酒に酔って多方面に喧嘩売るんだろうな、と思う今日この頃。