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【短編】さようなら、猫の国
果歩は立ち尽くしていた。どうして、どうしてこうなったんだろう。
猫を追いかけていた。それだけのはずだった。偶然見つけた、白い猫。青い目で、桜色の首輪をしていた。かわいさのあまり、撫でようとしたら、ものすごい勢いで逃げられた。
「あ、待ってよぅ」
細い路地に入って、突き当りを右。鳥居をくぐって、神社がある。子供の頃から何度も通った裏通り、のはずだった。
鳥居をくぐった先にあったのは、大きくて古い街だった。ところどころ損傷した建物。荒廃している、とでも言うのだろうか。
間違えるはず、ないんだけどな。そう思いながら引き返そうとしたが、そこに道はない。あったはずの鳥居もなく、一面の草原が広がっていた。
「……どういうこと?」
スマホを取り出す。予想はしていたが、圏外。果歩が驚いたのは、表示された日付を見たときだった。
『2222年2月22日 22:22』
「2ばっかり…。ていうか、未来じゃん!」
「あっ、さっきの人間!」
かわいい声がしたので振り返る。見ると、さっきの猫がいた。
「さっきの、猫ちゃん。しゃべってる…?」
「私はメイ。ここは猫の国だもの。猫ならみんなしゃべれるわ。」
「猫の国って………映画みたーい!!」
果歩は目を輝かせた。夢のような話だ。ファンタジーだ。こんな楽しいことが待ってるなんて!
だが、そこであることに気付いた。
「もしかして、ずっといたら猫になっちゃうの、私!?」
メイはふん、と鼻を鳴らした。
「ならないよ。でも早く帰ったほうがいいよ。ずっといると帰れなくなっちゃう」
「そう、なんだ…。でも、どうしたら帰れるの?」
「え?そこに出口『いる』よ」
メイが見つめる先に、先ほどの鳥居があった、というか『いた』。上部に猫耳が生えている。ご丁寧にきちんと足まで生えている。ちゃんと猫の足だ。しっぽもある。三毛猫らしい。
「ここは、猫の国だから。出口の鳥居も、猫なの」
「…あんまり、可愛くないね、鳥居猫」
鳥居がびょうびょう、と音を立てた。どうやら、それがあの子の鳴き声らしい。怒っているようだ。
「ごめんね、鳥居。この人間を帰してあげて」
メイが言うと、鳥居は足を折り畳み、地面に座った。
「帰れるよ、果歩」
「ありがとーっ!」
果歩は急いで駆けていく。途中でメイを振り返る。
「また、会える?」
「もちろん!また見つけてね」
「うん!」
鳥居から一歩踏み出し、ふと気付いた。
「そういえば、どうして私の名前…」
そう言って振り返ると、そこには見慣れた神社があった。
「…また、会えるかな」
果歩は歩き出した。
「…いいのか、メイ?」
その大柄な身体にぴったりの声で、鳥居猫は言った。
「…何が?」
「ずっと、果歩を見てきたんだろう?彼女を初めて見つけた、その日から、ずっと」
「大丈夫。また会えるよ」
「だが、もうすぐここは…」
「…うん、そうだね。でも、私はここにいなきゃ」
「そんなことは、ない。あと一回なら、向こうの世界に行ける」
メイは顔を上げた。
「でも…。鳥居が、ひとりになっちゃう」
「いいんだ。行きなさい。果歩に、よろしくね」
うん、と声に出した。涙は流さないようにした。
街を見て、メイは一度だけ、力強く鳴いた。
さようなら、猫の国。
さようなら、私の友達。
さようなら、思い出たち。
そうして、一歩を踏み出した。
「ひとりでも、ないさ」
鳥居猫は、誰もいなくなった街に向かって呟く。
かつての仲間も、思い出も、みなここにいる。
思い出せる友がいるならば、私はひとりではない。
ここを去るものが増え、街は存在を保てなくなった。それも、きっと仕方のないことなのだ。人に愛されるのなら、あちらの世界で生きるのなら、それもまた幸せだろう。
街が崩れていく。猫だけで生きた日々が、終わる。
「さようなら、猫の国」
果歩はとぼとぼと歩いていた。あれから十日。メイを見つけられないまま日々が過ぎた。
「メイちゃん、どこにいるんだろう…?」
あの神社にも、何度も行った。だが、会えないままだった。
「はあ……」
ため息をついた。あげようと思って買った猫用おやつは、バッグいっぱいになっていた。いい加減、あきらめようか。
ベンチに座り、ぼんやりと空を見る。もっと、お話したかったな。
そのとき、果歩の足に、ふわりと何かが触れた。
真っ白い身体。青い目、桜色の首輪。
それはにゃーんと可愛らしく鳴いて、果歩の膝に乗った。
果歩は涙を堪えて、大きな声で言った。
「また会えたね、メイちゃん!!」
了
あとがき
いつもとテイスト違いすぎるだろ、という声が聞こえてくる。右から左に受け流すことにする。ムーディ勝山は、もう一捻り欲しかった。そうしたらきっと…。
作品中の『果歩』と『メイ』は、日向坂46の藤嶌果歩さんと東村芽依さんからお名前をお借りした。
かほりんの歌声、破壊力えぐいなって思う。センターも向いてる、僕が言うまでもないだろうけどさ。全てにおいて、すごい。存在が希望そのもの。つい期待してしまう。これからを担ってほしい。ずっと応援してます。
めいめい。エッセイ『猫よりも猫』でも書いたけど、めいめいだけが持ってるものがある。他にこんなアイドルいないよ。SASUKE挑戦のときも、かっこよかったなあ。めいめいセンター、もっと見たかった。卒業しても、ずっと応援してます。
…え?
日向坂の話するとき、語彙が死んでないかって?
死んでるよ、仕方ないよ。僕の語彙じゃ伝わらないもの、日向坂46のすごさと可愛さはほんとに(以下略)。
作品としては、某有名映画とは全く違う猫の国があったら…という思いつきで書いた。荒廃した猫の国。書いておいてアレだけど、ものすごく悲しかった。途中でちょっと泣いた。作者なのに。
生き物が好きなので、題材にすべきじゃなかった。悲しい話になると、僕のメンタルがもたない。弱い、弱いぞ、僕のメンタル!
いつもと違う作品だが、楽しんでいただけたら幸いである。
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