【SS】ある写真家の願い【#シロクマ文芸部】
「紅葉から人間を消してくれ」
目の前の男は血走った眼でそう言った。
「世界から人間を消せばいいんだな」
私は神。そのくらいのことは容易い。残念なことではあるが、この男一人を残して人間を消滅させてやろう。そう思った矢先、男は首を振って否定した。
「紅葉シーズンだけでいいんだ。なんなら、景勝地以外には普通にいてもいい。それに、モデルは何人かいてくれないと……」
男はぶつぶつと呟きだした。フォトグラファーだというこの男は、完璧な紅葉写真のために人間を消滅させたいらしい。彼の思う『完璧な写真』とやらが何の価値があるのか、私にはわからない。それに…。
「人間よ。これを使えばよかろう」
私はスマホを取り出した。最新モデルで性能に定評がある。
「搭載されたAIを使って、写真を編集するのだ。必要じゃない人間を思いのまま消せるぞ」
男はうーんと唸っている。
「…なんか邪道な気がする。写真家としてのポリシーに反する」
そう言った男を、私は叱り付けた。
「そんな言い方はAI開発者に失礼じゃないか!この最新鋭のスマホをやるから、帰ってくれ!」
男はしぶしぶ帰っていった。
納得してくれてよかった。私は胸を撫で下ろした。魔術を使い、日光の紅葉を見る。
紅葉は、たくさんの人々で賑わってこそ。輝く色とりどりの笑顔を見て、私はその美しさに見惚れた。
了(551字)
#シロクマ文芸部
こちらに参加させていただきます。
あとがき
グー○ルピ○セルのCMじゃないよ。
消しゴム○ジックの宣伝とかじゃないよ。
…紅葉に限ったことではないが、そこに人がいることが嬉しいと思うこともある。誰もいない景色は、少しだけ寂しい。
かといって人でごった返す観光地には行かないのだけど。作中に出てくる日光にも行きたいが、行ったことはない。誰か連れてって(冗談)。
楽しそうだなーってテレビを見ているだけ。行けば発作を起こしかねないから。
来年には観光地に行けるくらい色々上手くいってるといいなあ…。
以上、あとがきでした。