オグナ 小説(13)
10日ほど開いてしまいました。すみません。
↑ここまでのお話
「十年以上かけて戦いから戻った私に大王はなんて言ったか、わかるかい?」
水に付けていた私の手を取り、顔を拭いていた布で私の手についた水をとんとんと取ってくれる。
お互いの距離の近さにドキドキする。
顔が良いっ。
「朕は出雲建を倒せなどとは言っていない。お前はおかしい。そんなに戦いが好きなら東の蝦夷も討ち取ってこい。とね。」
悲しそうな顔をしてそう言った。
「そう。じゃあこれから東に向かうのね。」
「そうさ。また何年も戦い続ける事になるんだろう。
なんか凄く腹が立ったからここに来る前におばさんにチクって来たんだ。」
「おばさん?ああ、御衣をくれたヤマトヒメ。」
ちょっと考えてそう言うと、皇子は頷いた。
「おばさんはなかなかに口が達者で何度も大王をやり込めたらしいんだ。若くして斎宮なんて重責を負わせた負い目もあるんだろうけどね。今頃呼びつけられて怒られてるんじゃないかな。」
「大王が?」
「そう、大王が。ちょっと面白いだろう?」
口元だけ笑った皇子の目は闇く、まるで二つの深い穴が空いているようだった。
「だって、行って帰って来るのだって命がけでおばさんは今生の別れかもしれないからって御衣までくれたのに、」
皇子はそこで一旦止めてその後に
「命をかけて戦ってようやく帰って来た私に今度は東に行けって、どれだけ側に置きたくないんだ。野垂れ死ね。つまり、死んでこい、と。
親に死を望まれるなんて。
私は皇位など望んでいないのに!
私は皇位など望んでいないんだ!
一言、良くやった、と言ってくれれば報われるのに。」
皇子は涙は流しては居なかったけれど泣いている。
私はそう思った。
そうか、やっぱり大王とかになるとその地位を狙ってるやつがいるから親子でも警戒するんだな。
皇子はこんなに大王の事を慕って居るのに。
んー、自分の兄を殺したと思われてるんじゃ、父親である自分も殺されると思うのもしょうがないのかなあ。
この人、見た目そんなに強そうじゃないのに相当強いんだろう。
なにせ二つ名がヤマトタケルだから。
余計怖がられるよね。
拗れに拗れまくってる。
「わかりました。じゃあ、望んじゃいましょう。」
皇子はそう言った私に驚いた顔をする。
「はあ?」
「皇子はそれだけの働きをしました。このミヤズが認めます。」
二つの穴の様だった目が大きく見開かれ口をポカンと開けている皇子の手を持って居た布ごと両手でキュッと握る。
「大王の愛なんて要りません。私が認めて愛してあげましょう。今ここからあなたは大王です。尾張はあなたにしたがいます。」
「えっ、あなたが愛してくれるのですか?」
パッと手を離して
「あ、いえ、それは言葉のアヤというか…。」
「愛してくれないのですか?」
「いえ、愛します。あれ?んんん?」
なんと言っていいか分からなくなった私に皇子は屈託なく笑いかける。
「ミヤズヒメはかわいい方ですね。」
さっきまでまとっていた闇いものはそこには無かった。
「でもそれはあなたのお父上は許さないんじゃないですか?」
「大丈夫です。私は尾張の惣領巫女ですから。」
「?」
顔が良い皇子のキョトン顔は私の心臓をまっすぐに打ち抜いた。