異人館の神さま(9) 小説
大股で迷いなく進んでいく女に遅れないように小走りでついていく
建物の入り口は解放されていた
階段の横には自販機が設置されている
短めのスカートで段差の狭い急な階段を一つ飛ばしで上っていく女
なんか色気に欠ける がっかり美人
女は三階まで一気に上がると横にあった電灯をつける
「ほらこっち 私 暗いの嫌 辛気臭くって」
その女はノックするでもなく扉を開けると中に入っていった
「つ~か~さ~ 連れてきたわよ 細ちゃん」
その部屋はスチールラックに辞書のような本がぎっしりと詰まっていて それが迷路のようにいくつもある昼間なのに暗い場所だった
机の上も資料の山で司はパソコンの前でメガネをかけて座っていた
「すみません、細子さん 教授から次のプレゼンの資料今日中にまとめるように言われてしまって
迷いました?」
「いえ、大丈夫です」
オレンジのファイルを渡しても司はパソコンから顔を上げることもなくこっちを見ようともしない
「ね、それ見せて」
女が焦れたように言う
「これはあなたが期待するものじゃないですよ」
細子からファイルを奪うようにとると中に目を通す女
信じられない顔で何度も目を通すと机の上に放り出した
「なんだ つまんない」
怒ったように大股でドシドシと足を踏みつけながら出て行った
「キレイな人ですね」
その後ろ姿を目で見送ってから細子は司を見る
メガネ、珍しいな
司は驚いた顔をして初めて画面から細子に目を移した
「見た目はそうかもしれませんね」
「キレイだからいろいろ許されてしまうのでしょうか?」
「ん?」
「バタバタしてるというか しっとりしたところが無いというか」
「ああ、違いますよ」
「?」
「細子さん、浴衣似合いますね」
あれ?話しそらした?
「あと少し待っていてくれたら一緒に帰れます」
それは助かる また電車で帰ることは考えたくない
「じゃあ、自販機でジュースを買ってきます なにがいいですか?」
「じゃあ、コーヒーを」
「わかりました」
部屋から出ると同じように隣のドアから出てきた女の人と目が合う
目で挨拶をして通り過ぎる
自販機で無糖と微糖のコーヒーを買い戻ると
さっき会った女の人ともう一人の女の人が隣のドアから顔を出していた
「?」
また目で挨拶をしてドアをノックして入る
無糖のコーヒーを司に渡し
「隣の部屋の人とは親しいの?」
と聞く
「なんで?」
「うーん、じろじろ見られた?」
「あー、」
司は細子を見て
「細子さんがかわいかったのでしょう」
「はいはい、浴衣が珍しかったのかなあ?」
「いや、珍しいのはスニーカーで居ることだと思いますよ」
ああ!忘れてた
「今日のお礼にその浴衣に合う下駄をプレゼントしますね」
嫌~~~ 恥ずかしいっっ
つづく
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