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さらら 1

赤ちゃんの泣き声がする。
母さまが言っていた「弟」かも。
私は好奇心で、近寄ってはいけないと言われていたお屋敷を覗き込んでいた。
「姫様、また裸足でこんな所まで。」
しまった!
周防に見つかってしまった。
「ねぇ、赤ちゃんには会えないの?」
周防は困った顔をした。
私は中大兄皇子と遠智娘(おちのいつらめ)の娘。
蘇我血を引く娘、らしい。
私が生まれた年に何かとんでもないことが起こったらしく、
私の父上が大王(オオキミ)として即位した、と周防や他の人たちが話しているのを聞いた。
周防は私の乳母。
「そうですね。子どもには関係ないですから。しっかり手と足を洗えたら、正式に会えるかどうか聞いてみます。」
そう言って周防は私を抱き上げた。
「わかった。綺麗に洗ってもらう。」
私は汚い手で赤ちゃんを触るのがダメなんだと思った。
周防の言葉にはもう少し深い意味があった。

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