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父とのこと

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それなりにかわいがられていたと思う。でもどうしても、安心できる相手とは思えなかった。そんな父との、いくつかの古い記憶。
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小学校入学前〜留学するまで | 父とのこと(につながる話)#4

話はまた小さいころに戻る。 ある春、近所のお姉さんがダンボール一箱分の本をくれた。中学校に上がるところだったお姉さんが、小学校に上がろうとしていたわたしに、小学生向けの本をいろいろとゆずってくれたのだった。このとき、ごくごく自然に、わたしはたくさんの本を読もう、と思った。そして実際、小学校が始まる前には箱に入っていたほとんどの本を読み終わっていた。 とくに記憶に残っているのは、学研の「理科のひみつ」という、理科で習う内容をマンガで説明する本と、タイトルは忘れたが小学校で習

わたしの留学費用 | 父とのこと #3

高校時代の途中?高校を出てから? 父と口を聞いていなかった時期があった。 高校を出てから、留学することに決めた。 アルバイトをして、少しお金を貯めた。 アメリカの大学のことを調べて、自分で手続きをした。 一般教養の間は、費用が安く済むコミュニティカレッジに行こう。 いきなり大学の授業に飛び込むのは不安すぎるから、 一ヶ月は語学学校に行こう。 お金がなくなったら戻って来て、 アルバイトしてお金を貯めて、 また行こう。 ぜんぶひとりで調べて、ひとりで決めて、ひとりで手続

少し後と、しばらく後の話 | 父とのこと #2

それからたぶん、少し後のこと。 家族でどこかに出かけていた。 暗かったから、どこかに行った帰りの夜? 父が少し先を歩き、わたしと母と弟は少し後を歩いていた。 弟は母と手をつないで、嬉しそうに何かを話していた。 最初は、わたしも母と手をつないでいたかもしれない。 母が、 「ほら、お父さんひとりで歩いてるから手をつないであげて。」 というようなことを言った。 わたしは父に追いついて、手をつないだ。 違和感しか感じなかった。 少しの間、手をつないでいた。 落ち着かなく

二番目に古い記憶 | 父とのこと #1 ver.2

覚えているのは、 ごはん茶碗がこたつ布団の上をころがったこと。 大泣きしてたわたしが息を飲んだこと。 「泣けば何でもしてもらえると思うなよ!」 …というような言葉。 たぶん初めて?その人に叩かれたこと。 そのときからわたしは、父を好きではない。 たぶんそれまでは、好きだった、と思う。覚えてはないけど。 まだ幼稚園には行っていなかったと思う。 わたしの、二番目に古い記憶。 *** わたしは驚いて母を見た。 そのとき母は、台所で洗い物をしていた。 母は、気づか

覚えている、あの、瞬間。 | 父とのこと #1

わたしがとても小さかったころ、父はわたしのことをそれなりにかわいがってくれていたのだと思う。少なくともわたしは、それなりにかわいがられていると感じていたと思う。 なぜそう思うのかというと、そう感じなくなった瞬間をハッキリと覚えているからだ。 覚えているのは、 電気が走ったような感覚と、 こたつ布団の端を転がる、ご飯用のお茶碗と、 「泣けばなんでもやってもらえると思うなよ」という言葉と。 こちらを振り向くこともなく、向こうを向いて台所に立っている、 本当はすべてを