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#3 新年度のはじめの一歩、農家さんに野菜づくりを学ぶ


■社会で役に立つために、何をアップデートする?


「57歳で准看護師試験に合格、“70歳まで現場に” 目標」「87歳、古い団地で一人暮らしを満喫。コロナ禍で始めた新しい挑戦」「エクセルも使いこなす“91歳課長” 年金だけに頼らず生涯輝く」。こうした見出しを新聞やネットニュースで目にするたびに、前に進もうとするエネルギーに頭が下がります。

准看護師試験に合格した高橋育子さんは、福祉施設に30年以上勤務。障害児ケアの研修で示された難解な医療用語を前に「専門知識なく人命を預かっていた」と反省、翌年春に退職して准看護高等専修学校へ入学。准看護師試験に合格した今は「70歳まで看護の現場で患者さんの力になる」(河北新報3月30日)と語っています。

これまで担ってきたフィールドで、より専門性を高めるために資格取得を目指す人、前回ご紹介したМ子さんのように、異なった分野で新たな学びをスタートする人、学びのスタイルは実に様々です。社会人の学びの入口も、MBAなどのビジネス系、文学や語学などの文系、福祉、デザイン、IT系など、開催される講座やプログラムは実に多岐に渡っています。

東京農大 オープンカレッジのパンフレット


比較的気軽に参加できそうなのが、大学のオープンカレッジです。自宅から歩いて行ける東京農業大学は、2022年前期に「食」「教養」「花・緑」などをテーマに全57講座を開講予定です。「和食を支える本みりん」や「菌活の科学!」などの1回きりの講座や、「樹木の形の意味」「剪定の理論と技術」など3回シリーズの講座もあります。一方、東京農業大学グリーンアカデミーは、シニア世代に向けて花と野菜と健康の講座を開講し、1年を通して園芸、造園、地域づくりなどを学べます。こちらは平日に2~3日間の講座があるため、会社勤めを卒業した人が対象ですね。

学びの場の選択肢が増えるほど、自分がどんな分野でどんな知識や技術を得たいのかを明確にすることが重要だと感じます。リモートワークで働き方が大きく変わったコロナ禍の2年間、私の興味と関心は、食と農の分野に向き、「地域」と「生産者」に関わるフィールドで何かできることはないかをずっと考え続けていました。


■コロナ禍で学んだ、食と農の循環構造


2020年3月、会社への出勤がストップし、仕事はほぼオンラインという予想外の生活がスタート。コロナ禍で、いくつかの国が農産物や食品の輸出規制を行ったことで、世界的な食料危機のリスクが声高に叫ばれるようになり、日本の食料自給率の低さやフードロスの問題が頻繁にメディアで取り上げられるようになりました。

一方、飲食店が休業を余儀なくされ、行き場を失った野菜を廃棄する映像に、「社会が止まっても、野菜作りはやめられない・・・」という生産者の悲痛な声が重なります。すべてが止まって初めて、どこで何が目詰まりを起こすのかが見えてくる、そんな感覚でした。収穫した野菜が捨てられるのはもったいない!「応援消費」という言葉に背中を押されるように農家さんから野菜を買い続けました。そして、手元に届く野菜の鮮度の高さに大いに感激。とれたて野菜のおいしさを再認識したのです。

こんなにおいしいなら、自分でも野菜を作ってみよう!このあたりのミーハー加減は、ハナコ世代の特徴の1つかもしれません。コロナ禍で家庭菜園ブームに火がついて、ホームセンターの園芸売り場は大混雑。まずは、プランターと土を買い、ベランダでジャガイモと葉物野菜にトライ。しかしながら、陽当たりが今ひとつの我が家のベランダでは、私1人の空腹を満たすだけの野菜の収穫は残念ながら難しいことが判明。

1株に大量の実がなるミニトマト


次に向かったのが貸農園でした。3.3㎡の小さな区画を月8,000円で借りて、ジャガイモ、ナス、キュウリ、ミニトマトなどを栽培。

これは、ベランダでの不完全燃焼を一掃するほどの達成感がありました。自分の手で収穫した野菜は食べ切りたい、フードロスをなくしたい、この一心で皮やヘタも調理し、現在実践中のコンポストでの堆肥づくりへと繋がります。昨年3月から年末までの貸農園での体験によって、「もっときちんと野菜を作れるようになりたい」「近所の農家さんのお手伝いができないだろうか」という気持ちを強くしました。

この思いを世田谷区の都市農業課の担当者に伝えると、「家庭菜園や区民農園での体験を積まれた方が増えて、そうしたご相談も徐々に増えつつあります。区が用意した講習会にご参加いただければ、農業サポーターへの登録も可能です」とのこと。確かに、貸農園で野菜栽培を体験したからといって、農家さんのお手伝いをしたいなんて、図々しい!と猛省。早々に講習会への参加を決めました。


■野菜づくりをゼロから学ぶ1年間がスタート


世田谷区から「野菜づくり講習会」への「当選」のお知らせを受け取ったのが2月の末。4月から来年2月まで全24回のプログラムで、参加者は30名。第1回目は、4月2日(土)の朝9時に始まり、この日のテーマは「鍬(くわ)の使い方を覚える」と「マルチシートを張る」。区内の農家さん5名が初心者30名を相手に、まずは鍬の持ち方をレクチャーしてくれます。

世田谷区喜多見にある次大夫堀自然体験農園内の畑


正直、鍬は思った以上に重かったです。「腕で持ち上げないで、身体のバネを利用すると楽ですよ~」と言われますが、30分ほどすると腕も足もギシギシで、疲労困憊。休憩をはさんで後半は、鍬でつくった畝(うね)をきれいに平らにし、マルチシートで覆います。黒いマルチシートの両端を2人で持ちながら、中腰になって張っていく作業は、またまたきつい!貸農園に比べるとかなりのカロリー消費です。

参加者の30人は、男女ほぼ半々で、年齢的には40代から60代というところでしょうか。今はまだ言われたことをこなすのに必死で、お互いにおしゃべりする余裕はまだありません。「なかなか、きついですね~」「明日、身体ボロボロですね~」といった弱気なかけ声ばかり。7月に予定されている「収穫祭」の頃には、もう少し前向きな会話が交わせることを期待しています。

日程表をみると、前半はカボチャ、ピーマン、ズッキーニ、ネギ、ゴボウ、サツマイモなどを、9月からの後半は、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、大根、カブなどを栽培する予定です。5月の終わりには少しずつ収穫が始まるので、4月は畝作り、種まき、植え付けをしっかり学びたいです。畑のある生活が久しぶりに始まり、とても楽しみであると同時に、「地域」と「生産者」に関わるフィールドで、何をしたいのか、何ができるのかを考える1年にできたらと思っています。

文・藤本真穂 
株式会社ジャパンライフデザインシステムズで、生活者の分析を通して、求められる商品やサービスを考え、生み出す仕事に従事。女性たちの新たなライフスタイルを探った『直感する未来 都市で働く女性1000名の報告』(発行:ライフデザインブックス2014年3月)の編纂に関わる。2022年10月に60歳を迎えるのを機に、自分自身の働き方や生き方を振り返り、これからの10年をどうデザインするかが当面の課題。この3月、60歳まであと半年を残してプチ早期退職、37年間の会社員生活にひと区切りした。