#6 このコラムをきっかけに、“シニア”の取材を受けました!
■ぼんやりとしか描けない、この先のイメージ
このコラムを今年2月にスタートし、気が付けば今回で6本目。ハナコが60代にどう向き合うのかを探り始めた途端に、自分自身が3月にプチ早期退職。学び直しに視点を置きながら、退職後の自らの体験を中心にテーマを取り上げてきました。すると、6月の初旬に「真穂さんのリタイアライフを取材したい人がいます。」というメッセージが友人から突然届きました。連絡をくださった一般社団法人シニアライフデザイン協会は、「これからどう生きよう。人を想い、自分らしく」をコンセプトに、シニアの再就労や起業など「働く」ことを中心に情報発信をされています。
友人を通じて協会の方がコラムを読んでくださったようで、「リタイアしたてのハナコ世代」にお声がかかりました。協会のホームページをみると、シニアを取材した記事が数多く掲載されていたので、まずはチェック。すると「裏方から役者として舞台に立つ66歳の女性」「病院経営から畑仕事の毎日へ転身した60歳の女性」「内科医と写真家の2足のワラジで生涯現役を目指す男性」など、今の生活や今後の展望をしっかりと語っている方ばかり。“リタイアライフ”が始まったばかりで、今後のことはほぼ白紙状態の私に話すことはあるだろうかと不安に思いつつ、お引き受けしました。
取材の当日、八丁堀にある協会のオフィスへうかがうと、「気楽におしゃべりする感じでお願いしますね~」というインタビュアーのひと言でスタート。今までの仕事のこと、退職のこと、今後はどんな仕事をしたいのか、何歳頃まで働くイメージか、生きる上で大切にしたいこと、などなど気がつけば90分ほどが経過していました。答えに困ったのが「仕事をしてきた中で、ご自分の強みは何ですか」という問い。興味や関心があることや、これからも生かせたらといいなと思う点は浮かびましたが、はっきりと自分の強みを言葉にすることはできませんでした。
インタビューが終わって感じたのは、これからの自分に対してイメージがまだまだぼんやりしている点です。後日、インタビュアーの方から「藤本さんは先が見えないことを楽しんでいる感じがとてもいいです。」とのメールをいただいたので、もうしばらくは楽しんでみようと思います。取材の模様は、こちらに掲載されています。
■「70歳まで働く時代」が現実に
今回の取材で問われた「自分の強みは何?」は、その後もひっかかっていました。7月初旬に参加した就業支援セミナーでも、「強みをはっきりさせることが重要です!」と講師が声を大にして語ります。世田谷区では就業支援を行う「三茶おしごとカフェ」が、「シニア世代の生き方・働き方」「シニア世代の自分らしさを上手に伝える面接対策講座」など、様々なセミナーを開催し、具体的な相談にも応じてくれます。
先日受講した「シニア世代のための初めての就職活動」では、冒頭に講師であるキャリアコンサルトが「70歳まで働く時代がやってきました」と力強く言い切り、2021年4月に施行された「改正高年齢者雇用安定法」について解説。「65歳までの雇用確保(義務)に、70歳までの雇用確保(努力義務)が加わり、働く意欲のある高齢者にはますます期待が高まっています!」「エンプロイアビリティ(雇用される力)を磨きましょう!」とたたみかけてきます。
さらに「ご自分の“強み”をまずはっきりさせることが重要です」と、強みを“見える化”する際のメソッド「PREP法」へと話を進めます。「PREP法」とは、「結論(Point)⇒理由(Reason)⇒具体例(Example)⇒再度結論(Point)」の順番で話を展開するフレームワークで、これを修得すれば説得力のあるプレゼンテーションができるようになるそうです。「PREP法を意識して自己PR文(強み)を作りましょう」とのお題が出されましたが、その場ですぐにはなかなか書けないものですね。こうしたメソッドを知らなかった上に、強みの理由って何だろう?で手が止まってしまいました。
その後は、「労働市場4月の有効求人倍率は1.23倍」「55歳以上の有効求人倍率は0.57倍」とデータに基づいた労働市場の現状から、「職の大ミスマッチ時代の到来」という話へ続きます。2030年頃までに、AIやロボット化によって生産職で90万人、事務職で120万人の過剰が生まれ、技術革新をリードしビジネスに適用する専門職が170万人も不足するそうです。スーパーの店頭でセルフレジを使う機会が増え、「人がいらなくなる仕事がこれから増えるなあ」と漠然と感じていましたが、具体的な数値でミスマッチの規模を示されると何だか実にリアルです。
■「成長の10年にする」と語る60歳の是枝監督
このコラムがスタートしてからは、「60歳」や「65歳」といったキーワードが以前よりも目につくようになりました。雑誌では、『60歳すぎたらやめて幸せになれる100のこと』『60歳からはじめて人生が楽しくなる100のこと』(いずれも宝島社)、新書では『弘兼流 60歳からの手ぶら人生』(中央公論新社)、『60歳から食事を変えなさい』(青春出版社)など。「Over65で輝く人」の特集で、「今の自分がやりたい仕事」を自然体で続けている65歳以上の女性たちを紹介するのは、日経WOMANのWEBメディアです。
「61歳で退職、高知県四万十町へ移住して農業に挑戦する69歳の女性」や「75歳で就労支援を行う相談員として、フルタイムで働く女性」など、人生の先輩がズラリ。
「60代は、成長の10年にしようと思っています。」と話すのは、1962年生まれの映画監督・是枝裕和さんです。NHKで放映されたインタビューで、韓国・釜山にある映画学校の学生から「60代になって是枝監督に新たな目標ができたのか、知りたいです。」という問いに答えたもの。最新作『ベイビー・ブローカー』を撮ってなお「成長の10年」と言い切れるところがすごい!と正直感じます。韓国を舞台に『ベイビー・ブローカー』を撮るにあたり、“チーム是枝”ではなく、俳優もスタッフも“オール韓国”という不慣れな環境に身を置き「武者修行」に挑戦。「慣れ親しんでいるチームの中だけだと新しいものを生み出せない」とも。同世代である是枝監督の「成長の10年」という言葉に、大きな力をもらいました。
一方、こんなシナリオもあるのか、とやや心が重くなったのが映画『プラン75』です。少し先の日本を舞台に、自らの生死を選択できる“プラン75”という制度に翻弄される人々を描いた作品で、国内外でも大きな注目を集めています。映画をみた友人の感想は、「ラストに希望をみた」「75歳すぎて生きるために働く社会なんておかしい」と賛否両論。78歳の主人公がホテル清掃員の仕事をクビになり、なかなか次の仕事が見つからず、警備員として働くシーンでは、最近みた「シニアの求人」に警備員が多く掲載されていたことを思い出しました。
メディアで見聞きする生き方や働き方の多くは希望にあふれていますが、80歳を前にしてなお生きるために仕事を探さなくてはならないのも現実だ、と思い知らされます。生き方を考えるお手本は数多くあれど、最後に決めるのはやっぱり自分なのだと思わされた作品です。