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【2024年10月時点】杉浦研の運営方針

この記事は2019年10月に公開、その後2024年10月に更新したものです。その段階での運営方針となります。

こんにちは。杉浦研究室の杉浦です。
この記事は、杉浦研究室の運営方針や実際に実践していることを、杉浦自身がまとめたものです。とても長いですが、当研究室に配属を希望してくださっている学生さんには目を通していただきたい内容となっています。
慶應義塾大学理工学部情報工学科は8割程度の学生さんが慶應義塾大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻情報工学専修に進学をしますので、研究室の運営方針も人数がマジョリティなその内部進学者に寄せつつ、一方でできる限り、大学院からの進学者や留学生への配慮をすることを考えています。

杉浦研究室

研究室には、学部4年生が6名、修士課程学生が12名、博士後期課程学生が6名在籍しています。ここには当研究室の研究テーマがわかるリンクを置きました。
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研究室に配属されたら

当研究室は、B4で配属されて対外発表ができるように研究室内でのプログラムを組んでおり、配属された学生さんにはそのための研究活動をしていただきます。研究室ではこの学部4年生の時期が一番忙しいと言えます。

2~3月:学部4年生で配属されるとまずはブートキャンプに取り組んでもらいます。このブートキャンプは、研究活動で使う基本的なスキルセットを2~3週間で詰め込む期間です。内容は、はんだ付け、電子回路、スケッチ、3Dモデリング、プログラミング、機械学習、動画編集、論文の書き方講座があります。またこのブートキャンプ最後では、取得したスキルを活用して、何か1つアプリケーションやサービスを作ってもらいます。2018年はMoff、2019年はSony MESH、2020年はm5 stack c、2021~2023年はtoio、2024年はヒアラブル(RN002 TW)を活用しました。

3~4月:情報工学科は例年7月に情報工学輪講という、単位に関わる、他の研究室と合同の論文輪講発表会(発表10分、質疑5分)が開催されます。ここで発表する国際論文の決定とスライド化、発表練習をします。論文の決定にあたっては、まず4~6本国際論文を選択し、これをScrapboxのページ1枚で要約して発表をしてもらいます。その後で1本に絞り込み、10分で発表できるスライドにまとめてもらいます。

4~7月:3月から教員とのミーティングを通して、テーマを決めていきます(研究テーマの決定方法も後ほど説明)。テーマは、例年4月中が締切となる大学院入試の願書提出ごろまでに決めています。

7~9月:学会への投稿と発表準備が主な作業となります。投稿先としては国内の学会や国際的な学会になります。

10月:卒業論文に向けてテーマ調整します。これまでテーマをブラッシュアップする人もいますし、全く新しいテーマに取り組むことも可能です。

11~1月:卒業論文に取り組みます。卒論準備と同時に成果を国際会議や原著論文に投稿をします。

2~3月:ブートキャンプの講師となり次に入ってくる学年の指導の補助をしていただきます。

研究テーマの決定方法

研究活動をはじめてすぐの段階で、自分で発案したテーマに取り組んでいるか、他者のテーマかは重要としていません。研究として成立するテーマを考えるのは、そんなに簡単なことではなく、分野に関する深い知識やさらにタイミングや運なども関係しています。これが決まらないことで、ずるずると研究に着手できなくなってしまい、仕舞には研究自体が嫌いになってしまうことがあります。
もちろん自身のアイディアに取り組むことができないというわけではなく、学生さん発案のアイディアが研究テーマとして成立するように教員もまずは一緒に考えます。
一方で、教員側から見てテーマとして成立をしないことが明らかな場合、例えば過去に全く同じようなアイディアが発表されている場合などは、別のテーマに取り組むことを勧めています。当研究室では、アイディアカタログという、日々教員や配属学生によって更新されているアイディアのリストがあります。また研究室として取り組まないといけないテーマ(共同研究や競争的資金関連)も多数存在していますので、これらに取り組んでもらうことをお勧めしています。
私自身も最初のころ取り組んだテーマの2つは、当時の指導教員や所属していた国プロの総括から「これやってみない?」といただいたもので、まともに研究テーマを出せるようになったのは修士課程から博士課程に入ったころでした。
研究のサイクルを一周できたメンバーには、今度は自分自身で主体的に、既存の研究の課題や、新規の研究アイディアを考えてもらい、多少のリスクがあってもそれに取り組むことを推奨しています。研究サイクルを回すことで、深い知識が身につき、新たな課題が発見できるようになり、修士課程修了までには自然とテーマを自分自身で発案できたり、自分自身で考えながら研究を推進できる能力が身についているようになると考えています。

研究室での滞在

よく「コアタイムはありますか?」という質問をもらいますが、研究室では今のところそのような時間を設けているわけではありません。一方で、教員としては「平日の日中に研究室で研究をする」ということは基本だと考えており、配属学生にはそれを伝え、それが前提の運営や教育をしています。
最近、色々とコミュニケーションツールが発展して、遠隔にいても作業ができるようになってはきていますが、研究室という場におけるフラッとはじまる教員や先輩、同級生との会話の直接的・間接的にも研究の進捗や自身の成長への寄与は無視できないほどに大きいと感じています。また当研究室は、ハードウェアの開発、研究室に設置されたセンサ機材による研究、広い空間を利用する研究も多く、そのようなテーマを研究室外に持ち出して取り組むことは困難な場合があります。
配属を希望したいけれども、例えばアルバイトをする必要があり、日中研究室にくることができないという状況でしたら、相談をいただければ必要な分をカバーできる研究室内でのアルバイトを紹介したいと思います。
とはいえ、現状のメンバーの全員が毎日かかさず研究室にくることができているかというとそんなこともなく、教員もそれに対して事細かく指摘をしているわけではありません。また自分の将来に向けて、研究以外の活動にも力を入れたい学生もいますから、配属希望のときにそういった事情を教えていただければ、教員としても応援し、研究活動との両立ができるように配慮をしています。
一方で特段にそういった事情もなく研究室にくる頻度が低いメンバーには指導をしています。教員の希望としては上記の通りで、またそれが自然となるように、研究環境やマネジメントを試行錯誤している最中です。

ミーティング

研究室のミーティングは主に2つあります。

進捗共有&運営ミーティング(英語開催):発表用のフォーマットがあり、各自はその項目に内容を記入し自分の研究ノート(Google Document)に貼りつけたものをプロジェクタで表示しながら、数分程度で状況を共有します。研究がどのぐらい進んでいるか、どこで躓いているかを全体に共有することが目的です。また研究以外の活動について報告してもよく、このミーティングでの楽しい時間となっています。運営の内容としては研究室の今後のスケジュール確認や学会の参加報告、役割分担などをします。

1on1ミーティング:教員と学生が1対1で1回30分程度のミーティングを行います。このミーティングの中心は研究の相談となりますが、進路や生活面に関する相談もしています。このミーティングの場所は、研究室内のオープンの場で行ったり、学生の希望に応じて別の場所に移動して実施しています。

2025年度から進捗&運営ミーティングは毎週実施(個人の発表は隔週に一度のペース)で2019年9月から留学生が加入しましたので英語での開催、1on1は希望制ですが、月に1~2度の実施を目標としています。

教員と学生の居室が同じ

当研究室では、教員と学生の居室が一体化しています。このような研究室は慶應理工では少ないようです。一体化している理由は2つあります。

1つめは、コミュニケーションの障壁をなくすということです。これは私が学生のころ所属していた五十嵐ERATOにおいて代表である五十嵐健夫先生が週に多くの時間を研究員がいる部屋で過ごされていて、気軽に相談しやすく、風通しの良いラボとなっていたことを参考にしています。

2つめは、物理的な制限として、学科から研究室としてアサインされている場所に教員居室として利用できる小部屋がないためです。現在は、学生もいる部屋の中に半個室を作り、教員はそこで作業をしています。

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学生同士での支え合い

当研究室は学生同士で支え合って研究を進めていただくことになります。こうするのは2つ理由があります。

1つめは、他者のことをチェックすることが、最終的には自分のことをチェックする能力に活かされると考えており、一定の時間を他者に割くことが必要となりますが、それを凌駕するぐらい自分自身の研究効率や質の向上に寄与すると考えているからです。

2つめは、フルタイムの教員が1名という研究室体制で、当研究室配属をしている学生が2024年10月で24名のため、なるべくなら教育や研究の本質的な部分に教員が時間を割けるような運営体制を構築したいと考えているからです。

例えば学内外発表に向けた練習では「教員と練習をする前に必ず学生同士で1回以上は練習をする」というルールを設けています。卒業論文や修士論文についても、論文に対して数名学生の査読者がアサインされ、フィードバックを行うような仕組みで運用しています。また日々開発した成果を隠すことなく、積極的にメンバーと共有をするということも大切にしています。このように教員とだけでなく学生同士での交流が必須の研究室です。

オンラインでのコミュニケーション

メインのツールはSlackを使っています。このSlackでは四六時中メッセージが飛び交います。Slackはメッセージを受け取る側がその通知を各自で設定できますので、「送る側は送る時間を配慮しなくて良いが、祝日や深夜に返信を期待しない」という方針で運用をしています。
また教員のGoogleカレンダーは配属学生にも公開されており、教員が今どこで何をしているかがわかるようになっていて、学生との時間調整に対するコストを下げています。

学外との交流

学外との交流やイベントがたくさんあります。

1つめは共同研究による学外交流です。特定の領域内で活動を続けるよりも、他の分野と積極的な繋がりながら、潜在的な課題の発見や解決、新しい価値を提供することが、重要な役割であると考えています。そのため、他分野の研究者と協業したり、民間企業、実際に現場で活躍している方々と対話をしながら研究を進めていくというスタイルをとっています。

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2つめは学会やイベントでの学外交流です。他の研究者との対話から、研究の改良のアイディアや、全く新しいアイディアが生まれるきっかけになります。そのため、当研究室は、原著論文の出版だけでなく、国内学会や国際会議にも積極的に投稿をし、登壇発表やデモンストレーションを通して学外の方々との交流をすることを重視しています。

ノートPCの配布

当研究室では、学生個人一人一人にノートPCの貸し出しをしています。一方で特段理由がない限り、デスクトップPCの配布はしません。その理由は次の3つです。

1つめは、当研究室では、実際にユーザが体験できる状態でデモンストレーションすることを重んじており、学会発表でも口頭発表の他、実際の成果を体験できるような形で紹介をすることを重要としています。そのときでも展示セットを手軽に持ち運びができるようにするためです。

2つめは、研究室内外でPCが必須となるワークショップを開催することが頻繁にあり、こういうときでも一人1台ノートPCを所持している方が実施までの障壁がなくなります。

3つめは、物理的なスペースの問題です。当研究室では人間の身体性を伴うシステムの開発が中心であり、そのための開発・実験・デモ展示スペースを研究室内に確保しています。デスクトップPCを全員が利用するとそれによってスペースが圧迫されて不自由になってしまうからです。

長期休暇

長期休暇期間は、通常よりもミーティングの頻度を下げて運用をしています。授業期間の平日にコツコツと研究をしているメンバーが、長期休暇中にまとまって休んだとしても、卒業自体に影響を与えるということはこれまでほとんど発生していません。この間は自分の成長につながる活動を主体的に取り組んでもらうことを期待しています。学会投稿や発表があるメンバーもいますので、それに向けてはしっかりと準備をしてもらいます。また研究の進行が遅れているメンバーはこの期間も努力をしてもらいます。

留学やインターン

研究が順調に進んでいれば問題ありません。特に自分自身のスキルアップや、実績としてプラスに働く課外の活動(アルバイトを含む)に対しては、積極的に送り出しをしています。自分でそのような場所を見つけてくるのも良いですし、見つからない場合は、教員が推薦できるアルバイトやインターン先のリストをまとめていますので、そこから推薦をしています。

広報活動

研究成果を「自分の名前」とともに世の中に発信することはとても重要な学術活動です。論文を出版するというのは代表的な発信の形式ですが、大学研究は税金によって支えられており、納税者の方々にご理解いただくためにも、論文以外にも様々なカタチで成果を社会に発信することが求められています。研究室でも可能な範囲で成果を届けられるように、ウェブのコンテンツを充実させたり、SNS等を使った発信、対外的なデモンストレーションを積極的に行っています。

就職先

当研究室は2018年に立ち上がってしばらく経過し、卒業生が増えてきました。幅広い業種で内定多数獲得し、就職している印象です。
ラボでは、日々の雑談や1on1のミーティングの中で進路に関する会話をするようにしています。OB/OG訪問や紹介して欲しい企業がある場合は、共同研究先や私の先輩・後輩の関係を辿ってできる限り対応するようにしたいと思っています。
2023年には18名のOB/OGが参加した交流をしました。このような交流会では、現役メンバーも色々な様子を聞くことができ、より自分の将来をイメージできる機会となっているようです。

最後に

最後まで読んでくださりありがとうございます。
この文章の作成&公開に至った理由は、研究室に配属前の当研究室に対する印象と、後の印象の「差」をできる限り小さくしたいためです。この差は、ほとんどの場合ネガティブに働いてしまうことが多く、大きければ大きいほど、学生、教員双方が不幸になってしまいます。
研究室の運営方針は日々変化するものですので、その都度こちらの記事を修正したり、追記していきますし、また読んでいただく方々も「2024年10月段階での」運営方針としてご理解いただけると幸いです。
運営方針を教員自らの言葉として公開する研究室は増えてきました。お茶の水女子大学 伊藤(貴之)研、明治大学 中村研、東京大学 稲見・檜山研は研究室運営に関する丁寧な記事を公開しており、当研究室の運営においても参考にしております。このように公開されている記事と本記事は、内容としていくつか重なるところがありますが、重なっている部分も含めて研究室の運営方針として文章化をし、公開しておくことが大事であると思っています。
本記事は、教員の目線で書いています。実態に沿って書いているつもりですが、興味がある方は、これに加えて、学生さんによる記事「杉浦研での研究生活」の方も目を通していただくと、より研究室の様子がわかると思います。本記事以外でも、例えばこのような記事でも一部研究室運営について紹介をしていますので、興味のある方は合わせて一読いただけると助かります。

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