【学会参加報告】マスクの紐をインタフェース化する手法(FIT2022)
はじめに
こんにちは、杉浦裕太研究室M1の山本匠です。9月13日~15日に慶応義塾大学矢上キャンパスで開催された第21回情報科学技術フォーラム(FIT2022)に「マスクの紐をインタフェース化する手法」と題して発表しましたので、報告させていただきます。
研究の概要
マスクはコロナ禍以降生活必需品となり、多様なマスクが普及するようになりました。素材に関しては不織布製だけではなく布製のマスクが、色に関しては白だけではなくグレーや黒、ベージュといった多様なマスクが使用されています。マスクをファッションアイテムの一つとして活用する人もおり、マスクを用いたファッションショーも行われています。
マスクがここまで普及したのは、公共空間において着用が推奨されているためです。このような公共空間、例えば電車の中などでは、スマートウォッチやイヤフォンなどのウェアラブルデバイスが頻繁に使用されています。ウェアラブルデバイスは時代と共に小型化・無線化され、可搬性が向上してきましたが、入力のための物理的なインタフェース面が減少するという課題があります。例えば、Apple純正のイヤフォンは無線化されると、有線イヤホンで存在していた操作のためのリモコンが排除されています。
限られた面積で入力を実現するために、例えばイヤフォンではタッチの回数や時間の長さで操作を行いますが、インタフェース面が限定されている以上ジェスチャ入力の幅にも限界があります。
そこで私はマスクの紐に着目しました。マスクの紐はマスクを装着するために必要なものですが、頬に大きな面積で接触しています。紐は、ねじる、ひっぱる、タッチするなど多様な操作が可能であるため、紐を用いることで従来のウェアラブルデバイス以上に多様な入力が実現できると考えています。
紐の入力は多様ですが、今回のプロトタイプデバイスでは「ひっぱる」動きのみのセンシングを試みています。デバイスとしては耳掛け型デバイスとなっており、マスクの紐をレールに通し、紐と同時にデバイスを耳にかけることで装着します。デバイスには反射型光センサ(フォトリフレクタ)が6つ取り付けられており、紐の動きをセンシングします。
HCI研究でマスクを用いた入力インタフェースは過去にも提案されていますが、センサを直接マスクに取り付けることでセンシングしていました。しかしマスクは1日単位で使い捨てて使う場合が多いため、実際の利用シーンを考えると、毎日家に出る前にマスクにセンサを取り付ける必要があります。そこで本研究では耳掛け型デバイスからセンシングを試みることで、既存のマスクにセンサを取り付ける手間が必要なしにインタフェース化することができるようにしました。
得られたセンサデータを画像化した後、CNNを用いてジェスチャ識別を試みました。被験者4人のデータを収集した結果、最終的に79.69%という精度で識別することができました。
この学会に投稿したのは6月中旬でしたので以上の内容をまとめて予稿集を提出したのですが、それ以降に実際にどのようなジェスチャをユーザが求めているのかの調査(Elicitation Study) を行いましたので、そちらの内容も含めて発表しました。この調査に関しては10月頭のSIGDeMO-14という学会に向けて論文執筆を終えており、これから発表する予定ですので、その発表報告の際に執筆させていただきます。
当日のフィードバック
「マスクを後ろで結んで使用する人もいるが、そういった場合は使用できるのか?」といった趣旨の質問がありました。本研究のプロトタイプでは後ろで結んで着用する場合は想定しておらず、この研究の制約の一つと言えそうです。この質問からコロナ禍以降マスク文化が多様になっていることを実感しました。
感想
この学会は私にとって初めての対面学会発表でした。会場が普段通っている矢上キャンパスであったため発表前は学会に来ている感覚があまりなかったのですが、いざ発表してみると聴講者の方の反応を見れたりセッションが終わった後に立ち話をする機会があったりと、対面での発表の醍醐味を味わうことができました。また、同セッションの他の発表を聞いて質問することも、自分の興味の幅や知見を広げ、思考のトレーニングになると感じました。
ありがたいことにFIT奨励賞を頂きました。セッションで議論してくださった皆様、ありがとうございました。
ラボツアー
「慶應理工情報系研究室ラボツアー」というイベントがあり、研究室全体で研究紹介とデモをしました。訪れた方から貴重なフィードバックを得ることができました。
参考文献
発表情報
発表スライド
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