グリーンウォッシュと火力発電の広告について考える①
小島寛司(弁護士・一般社団法人JELF(日本環境法律家連盟)事務局長)
1 日本の政策が「グリーンウォッシュ」と批判される
2023年12月3日、ドバイで開催中のCOP28において、日本は4年連続となる「本日の化石賞」を受賞しました。
化石賞は、COPの開催期間中、世界最大の環境NGOグループ「Climate Action Network(CAN:気候行動ネットワーク)」から、その日の交渉で気候変動対策に後ろ向きな言動をとった国に贈られる不名誉な賞です。
CANはプレスリリースで、日本政府の進めている石炭火力発電所でのアンモニア混焼などの取り組みについて、「国内およびアジア全体で石炭とガスの寿命を延ばそうとする彼らの試みが透けて見える」とし、これは「グリーンウォッシュにほかならない」と受賞の理由について説明しました[1]。
グリーンウォッシュ(グリーンウォッシング)とは、環境に良い、というイメージを持つ「グリーン」という言葉と、「うわべだけ」や「ごまかし」を意味する「ウォッシュ」を合わせた造語で、企業などが本当は環境に配慮していないにもかかわらず、しているように見せかけることをいいます。
日本政府は国際的な環境NGOから、政府自身が「グリーンウォッシュ」を行っている、と批判されてしまったのです。
2 アメリカ・オイルメジャーの歴史
グリーンウォッシュの背景を理解するために、アメリカの「オイルメジャー」といわれる世界的な石油産業関連企業の歴史を振り返ってみたいと思います。
最近の調査によれば、オイルメジャーが、実は1950~60年代には、既に気候変動による潜在的なリスクを認識していたことがわかってきています[2]。
アメリカの中心的な石油業界団体である米国石油協会も、温室効果ガスの排出による温暖化の進行を詳細に予測しながら、それを一般的に公開せず、むしろ気候変動については説が分かれているという小冊子を発行するなどして、気候変動懐疑論を増長させる一因を作り出しました[3]。
このようなオイルメジャーや石油協会の動きは、1997年に京都市で開催されたCOP3において京都議定書が採択された頃から大きく変わりはじめます。
この頃から、石油業界全体が、突然、表向きには温暖化や気候変動を否定することをやめ、むしろ石油業界も再生可能エネルギーへと舵を切らなければいけない、転換をするんだ、というような広告キャンペーンを行うようになりました。
しかし、実態を見てみると、オイルメジャーは最近においても、再生可能エネルギー等の気候変動対策に大きな投資をしてはいません。例えば、2019年時点でオイルメジャーが再エネやバイオマスなどに投資している金額は、彼らの投資額全体のわずか0.8%程度に過ぎなかったという調査があります。
石油大手エクソンモービルは2020年11月に行ったSNSの投稿で「当社は過去40年間で、どの会社よりも多くのCO₂を累積的に回収してきました」という広告をしていましたが、調査によれば、同社が回収したCO2は全体の3%程度に過ぎません[4]。しかもそのほとんどは、さらなる石油の産出に利用されていました。エクソンは、CO2を回収してきたとする同じ期間に、化石燃料の生産を大幅に増やす計画を進めてきたのです[5]。
3 海外における「グリーンウォッシュ」規制
2007年、石油大手シェルは「排出された二酸化炭素を花の栽培に利用しています」という広告を行っていました。これに対し、イギリスの広告業界団体である広告基準協議会(ASA)は、消費者は広告から、シェルが排出したCO2の全て又は少なくとも大部分が花の栽培に利用されたと解釈する可能性が高いが、実際には排出量のごく一部しか花の栽培には使われておらず、誤解を招くとしてその広告の使用を禁じました。[6]
また、ASAは、2019年には、アイルランドの格安航空ライアンエアーに対しても「欧州で最も排出量が少ない航空会社」という広告を,同様の理由で禁じています。
このように、イギリスなどヨーロッパでは、「グリーンウォッシュ」広告に対して業界団体等が強い問題意識を持って規制を行ってきました。
消費者保護団体などがグリーンウォッシュに対して提訴する動きもあります。最近ではKLMオランダ航空による「Fly Responsibly」という広告に関連する表現の修正などを求めて、Fossil Freeという団体が訴訟を提起しています。
訴訟大国アメリカでは、こういったグリーンウォッシュに対する訴訟が多数提起されており、世界の中でも圧倒的な数になっています。アメリカの訴訟はほとんどのものが州の司法長官が起こした訴訟で、いわゆるたばこ訴訟(たばこの健康被害を充分説明せずポジティブな広告のみを行っていたことが問題とされた訴訟。最終的にたばこメーカー側が多額の賠償金を支払うことで和解)をモデルにしているそうです。[7]
ちなみに、アメリカではこういったグリーンウォッシュ訴訟も含めてこれまでに1500近い気候変動関連訴訟が起こされています。
このように欧米では「グリーンウォッシュ」への問題意識が高まり、法的な問題と捉えられるようになってきているのです。これは、2で述べたような営利企業の本質的な問題を市民がよく理解して警戒しているものともいえるでしょう。
(その② https://note.com/lcj_japan/n/n8f7ac8fdb07a へ続きます)
[1] Fossil of The Day 3 December New Zealand, Japan, USA, - Climate Action Network (climatenetwork.org)
[4] https://www.climateandcapitalmedia.com/exxons-carbon-capture-scam/
[5] https://www.eenews.net/articles/lawsuits-target-exxons-social-media-green-washing/
[6] https://www.theguardian.com/media/2007/nov/07/asa.advertising
[7] https://www.bbc.com/news/stories-53640382