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グリーンウォッシュと火力発電の広告について考える②

小島寛司(弁護士・一般社団法人JELF(日本環境法律家連盟)事務局長)



 電力会社によるグリーンウォッシュ広告 

 前回の記事(https://note.com/lcj_japan/n/nd652969c503d)では国際的に「グリーンウォッシュ」に対する批判が強まっていることをご紹介しました。
 では、日本ではどうでしょうか。

 石炭火力発電所を保有する企業による広告を例に考えてみましょう。

 化石燃料の中でも特に多くのCO₂を排出する石炭を燃料として使用する石炭火力発電所は特に優先的に廃止していくべき、というのが世界的な潮流です。しかし、日本では、今なお石炭火力発電所の廃止計画は進んでいません。様々な理由をつけて、できる限りの延命を図ろうとしている、というのが実情ではないでしょうか。

 ところが、これに対して日本国民が「怒り心頭」となったり、「恥ずかしい」という声が大きくなったりというのは、今のところあまりないように思います。

 もしかすると、そういった電力会社の、再生可能エネルギーの導入を打ち出す広告・宣伝や、石炭火力発電所もそれほど悪いものではないという宣伝・広告が功を奏しているのかもしれません。

 そのような広告の代表的なものが、株式会社JERA(以下「JERA」)による「CO₂が出ない火をつくる」という広告[1]ではないかと私たちは考えています。

 広告の問題点

 JERAは、石炭火力発電所を維持しながら、燃料として燃焼時にCO₂を排出しないアンモニアを混ぜて燃やすこと(アンモニア混焼)によって、発電によって排出されるCO₂を減らそうという計画を立てています。

 しかし、このようなアンモニア混焼にはいくつかの落とし穴が存在します。

 1つめは、①製造段階でCO₂の発生が避けられないことです。水素と窒素を反応させアンモニアを合成するために古くから用いられ、かつ今日も主流であるハーバー・ボッシュ法では、高エネルギーを使用します。そして、今日市場に流通しているほとんどのアンモニアの製造には、化石燃料が使われています。すなわち、アンモニアは、発電のための燃焼段階ではCO₂を排出しないかもしれませんが、その製造段階では、未だ多くのCO₂を排出するのです。

 「TransitionZero」(2022年2月発表の英国シンクタンクの経済リポート[2])によれば、ブルーアンモニア(化石燃料を使用してアンモニアを製造するものの、発生したCO₂を地下貯留する)・グリーンアンモニア(製造に再生可能エネルギーを使用)による発電でない限り、石炭を変わらず使用し続ける場合と比べて、ほとんどCO₂の削減効果はない(むしろ場合によっては多い)とされています。

 「TransitionZero」は、このような分析を踏まえ、「国際的な牽引力がない状態で、電力部門におけるアンモニアの使用において、アンモニアを将来のゼロカーボン燃料にするために必要な商業的・技術的な飛躍を達成することは難しいと思われる。」と結論づけています。

 しかも、この石炭火力発電所でのアンモニア混焼技術はアジア等に輸出を進めることも検討されており、輸出後にこれがうまくいかず頓挫した場合、負の遺産が日本国内にとどまらず全世界に残されることになりかねません。

 2つめの問題として挙げられるのが、②仮に技術革新とアンモニア市場の確立に成功し、計画通り2050年頃までにブルーアンモニア及びグリーンアンモニアの専焼による発電への移行が叶ったとしても、それで十分なのかという点です。

 現在、世界が目指す、平均気温上昇を産業革命以前に比べて1.5℃に抑えるという1.5℃目標のためには、早期に段階的にCO₂排出量を減らしていく必要があり、少なくとも2030年時点でCO₂排出量を2010年比で半分近くまで削減しなければなりません。現在のまま、アンモニアに期待をかけながら石炭火力発電所を稼働しCO2を排出し続けていては、技術・市場の確立前に、許された排出量を超過してしまう恐れがあるのです。

 それにもかかわらず、JERAによる広告には、このような点についての適切な言及はなく、消費者の誤解を招きかねない内容になっています。

 環境団体による日本広告審査機構(JARO)への申立て

 こういった問題意識から、2023年10月5日、環境問題に取り組む弁護士約420名による任意団体であるJELF(日本環境法律家連盟)[3]は、NPO法人気候ネットワークと共同で、JERAの広告はグリーンウォッシュであるとして、公益社団法人 日本広告審査機構(JARO)に、このような広告を中止するよう勧告を求める申立をしました[4]。

 JAROは、広告・表示の適正化を目的として広告関連企業らによって設立された民間の自主規制機関で、同様に自主規制機関である英国ASAなどと共通する性格を持つ団体です。

 JAROへの申立てに関しては、審査基準や判断プロセス、過去の裁定結果も十分には明確にされておらず、団体としての独立性も、ASAなど海外の機関と比べて不十分です。しかし、今後の社会において、グリーンウォッシュへの対策の強化は、避けて通れない課題です。JAROに対しては本件のみにかかわらず、英国ASAのように、公平・中立な立場からグリーンウォッシュを含む広告の問題について積極的に判断を行って頂くようになることを期待しますし、それが一般消費者の利益を守り、ひいては公正な競争と健全な経済発展につながっていくと私は考えます。

 また、それだけでなく、私たち市民一人ひとりが、消費者として、そういった広告が石炭火力発電所の延命を目的としたグリーンウォッシュではないのか、問題意識をもって目を光らせ続けなければいけないと思います。


[1]  https://www.jera.co.jp/corporate/about/zeroemission  

[2] https://www.transitionzero.org/insights/advanced-coal-in-japan-japanese

[3] JELF日本環境法律家連盟(Japan Environmental Lawyers Federation) | 環境問題に取り組む法律家のNGO (jelf-justice.org)

[4] 2023年10月5日、JERA「CO2が出ない火」広告はグリーンウオッシュ 。日本広告審査機構に申立てました | JELF日本環境法律家連盟(Japan Environmental Lawyers Federation) (jelf-justice.org)


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