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人の手が関わる意味

「どうだ、このホテルの温度を感じるか?」
リッツカールトンの創立者であるホルスト・シュルツィが、日本のあるホテルのロビーで尋ねた言葉だそうだ。僕はこの質問がデジタル・アナログを問わず、サービスの良し悪しを判断する上で非常に的を射た問いかけだと思っている。もちろん、室内の気温のことではない。サービスを体験するお客様が、サービスを提供する側の人、物、環境などその空間を構成するすべての要素を体感することで判断を下す定性的な評価のことだ。

この問いかけで思い出すのが、以前出張で利用した新潟駅前のビジネスホテルである。オープン間もないそのホテルには自動チェックインの仕組みがあって、当時とても驚いた。電話番号と予約番号を端末に入力するとカードキーが出てきて、誰とも会わず部屋までスムーズに入れるのだ。一見すると効率的で、とても楽である。ただ、私はそれ以降、その宿を利用したことがない。出張時は終始ビジネストークばかりで滅入ることも多く、何気なく交わすフロントの方との会話が自分にとって大切なのだと気づいたからだ。

『リッツカールトンが大切にする サービスを超える瞬間』は、ホテルマンとしての著者の矜持が凝縮された1冊だ。マニュアルだけでは難しい「おもてなし」の実践手法が数多く書かれている。実はこの本、オススメのビジネス書を問われると、よく名前を挙げる書籍だ。私自身、ことあるごとに何度も読み返している数少ない本でもある。

この本は、リッツカールトンでお客様に心地よい時間を過ごしてもらうことを追求した、ホテル業の枠を超えたノウハウが記されている。そのほとんどが新システム導入といった機械的なことではなく、ホテルのスタッフの丁寧な対面でのサービスによるものだ。AIというキーワードがニュースで飛び交う昨今、サービスに「人の手が関わる意味」はどこにあるのだろうか。この問いにヒントをくれるエピソードが数多く収録されている。

私は今年からあるアプリサービスに関わっている。アプリで掲載されているサービスをリアルの商材に変換してマネタイズを図る仕事だ。WEBでの動きをリアルの小売店にどう連動させていくのか。リアルの現場がよりリアルの良さを出すためにWEBはどう動けばいいのか。WEBの世界にリアルの良さを取り入れるにはどうすればいいのか。リアルの世界は定量化しづらいことがサービスの肝であることが多い。であれば、定性的なサービスの最高峰を知ることで、WEBなりの定性的なサービスのヒントを得れるのではないか。そう考えると、本書はその一端の宝庫であるように思える。

「どうだ、このサービスの温度を感じるか?」

自分が携わっていることを、立ち止まって、考えてみてほしい。課題の本質が何なのかを考えさせる一冊だ。

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