「主夫」というキャリア #働くってなんだろう
わたしは働くのが苦手だ。
ぼくは勉強ができない、みたいだ。
でも、うまく働けない。働けなかった。
電話を取るのが苦手だ。
一瞬びくっとなった後に躊躇しながら受話器をあげる。「はい、」と声を出そうとする頃には、ほかの誰かが取っている。
そんなことの繰り返し。
コピーの裏と表をすぐに間違える。上下逆さまにする。
紙をまっすぐ切れない。テプラの高さを揃えられない。
とにかく、凡ミスが多い。
新卒で会社を選ぶとき、業務内容よりも分野にこだわった。そして第一の条件は「妻と一緒にいられること」。医療・看護系の人材会社に4年間いた。
いい人が多くて、たのしかった。怒られてばかりだったけど。
次に選んだのは、企業向けの業務支援クラウドのIT会社、約3年。業務内容にこだわって、転職をした。前の職場では教えてくれる人がいなくて、全て自分で調べて自分流にやっていたから、不安だった。
覚えることが多くて、たのしかった。やっぱり怒られてばかりだったけど。
働きすぎて、こころとからだを壊した。
主夫をしながら、クラウドソーシングのライターをしたり、税務署でアルバイトしたり、大手スーパーでパートをしたりして、今に至る。
いま、また新しい働き方を探そうとしている。
こんな失敗の多い働き方をしているわたしが「働く」について思うことは、失敗しても、躓いても何度でもやり直せるのがいいね、ということだ。
どうしても仕事がうまくできないこともある。やむを得ない状況で仕事を辞めざるを得ないこともある。仕事量をセーブして、描いたキャリアを諦めなければならないことも、キャリアを降りることもある。
人生は、ままならないことばかりだから。
だけど、何度もやり直してもいい、という優しい社会なら、立ち上がる時のエネルギーが少なくて済む。転んでも痛くない社会なら、安心して転ぶことができる。難しいことにチャレンジできる。
わたしは、主夫をしている。
主夫をはじめたときは、これまで築いてきたキャリアが断絶した思いがして、絶望していた。けれど「主夫もキャリアの一つ」と考えたら、とても楽になった。主夫は、「ブランク」なんかじゃない。
大切な家族を守りながら、地域や学校と関わって、同質的な会社よりもずっと多様で複雑な人間関係のなかで、毎日働いている。
主夫をしていなければ、見えない世界、できないことがいっぱいあって、主夫をしていなければ、きっと会わなかった人たちがいっぱいいた。
主夫を続けることで、自分のキャリアに彩りを与えることができた。なんだかちょっと、面白くなった。
働くことは、もっと自由で、安心してできるものになればいい。そのほうがきっと、楽に生きられるし、面白い世界が待っている。