子どものための嘘
娘は、まだサンタクロースを信じているんだろうか?
正直、怖くて聞けない。聞けないけれど、何が欲しい?と聞いたときに、「あ、でもあれはサンタさんにもらうから」とさらっと言ってしまう娘はまだ信じているような気がする。兄弟のいない一人っ子の小学生の娘。友達との会話やなにかの本、朝のエンタメニュース番組で気づいてくれるのだろうか?
私たち親の多くは、サンタクロースがいて、サンタさんがプレゼントを届けてくれる、という嘘を子どもについて、だましている。それは子どものための嘘なのだろうか。誰のためでもないようにも思うし、クリスマスというイベントを楽しむ、お互いのための嘘であるようにも思う。
朝起きて、枕元にプレゼントが置いてある、という体験は、たしかにうれしい。そのための嘘を、毎年繰り返している。でも、子どもが賢く育っていくにつれて、そろそろ親のほうにも罪の意識が芽生えてくる。どうしよう、そろそろ打ち明けるべきなのか、それともお芝居を続けるのか。大人も子どもも、お互いときどき「嘘」をつく。いつでも正直にいられる人なんてほとんどいない。
こうした子どものための嘘を許せない人もいるだろう。それは本当に子どものためのものなのか、と。
話は少し変わり、娘が学校で解いているプリントのなかに、「江戸しぐさ」について書かれたものがあった。少し調べれば、歴史的な資料は何もなく、ただ現代の人がこれは口頭で伝え続けられてきたものだと主張しているものだという「嘘」であることがわかる。
では、学校は「嘘」の江戸しぐさを子どもたちに伝えているのか。たしかに、お互いを尊重し譲り合うマナーを覚えさせるためにはいいのかもしれない。でもそれは史実ではない、少なくとも確たる証拠のないものである。子どもたちが譲り合ってお互いに優しい気持ちでいられる大人になるためには、史実であるかどうかは関係なく、道徳で伝えるべき必要な「嘘」なのだろうか。
このプリントを見た時の私の心のざわつきは、なんだろう。「江戸しぐさなんて本当はないんだよ」と吐き捨てるように子どもに伝えたけれど、では同じように「サンタクロースなんていないんだよ」と言えるだろうか。
嘘をついてサンタクロースを信じさせた私は、江戸しぐさに石を投げられるだろうか。想像上の人物と、史実は違う。けれど、「嘘」を教えることのうしろめたさ、それを否定することの難しさ、そんな面倒なものをなぜか私たちは持ち出して子どもたちに与えている。
サンタさんは、そんな葛藤を抱えながら今年もプレゼントを考えている。決して楽な仕事じゃないね。