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「犬神家の一族」 むせ返るような昭和の妖気


#夏に観たい映画

 録画した「犬神家の一族」を見ている。主演は石坂浩二さん。金田一耕助を演じた役者は多けれど、私にとっての金田一さんは恐らくこの人だ。

「犬神家の一族」を初めて見たのは幼少期……例の菊人形に「ギャー!!」となった作品……幼少期からおどろおどろしい作品に親しみすぎではないだろうか。陣内孝則さんが明智小五郎演じるドラマしかり「Xファイル」しかり。
 幼少期はただただ恐いだけで楽しめたものではなかったが、気付けばしっかりハマっていた。私の明治~昭和初期好きはここから始まった気がする。

 粗い画質。セピア色の粒子越しのような色調。戦後の貧しさの上に立つ金と欲の犬神家。その中で繰り広げられる猟奇、猟奇、猟奇。何かあればすぐ叫ぶ女たち。ついでに金田一さんもよく叫ぶ。柄に柄をかけあわせた和装の妙。開襟シャツ。太いネクタイ。よれやすい背広。
 嗚呼、犬神家! 映像化によって欲望と情念の生臭さが立ち上る。夏に観るに持ってこいの、むせ返るような妖気。平成のリメイク版も映画館で見たが、この妖気は新しいシリーズでは感じられなかった。大人になった今、この妖気を楽しめるようになってよかったと思う。

 加虐の母、力に訴え相手を支配することに躊躇いのない息子。母が灰汁も押しも強いのに対し、息子は腕力しかない。しかも自分より弱い相手にしかふるわない。割りと情けない息子たち。母の方が色々強い。歪な母子が相応の報いを受けるところは少しスカッとする。方法が猟奇的だけれど。

 この酷暑に、ねっとりじっとりした昭和の妖気。今年は自分の内も外も湿度の高い夏になりそうだ。

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