空泳ぐ鯨を追って
夏に限らず一年中聴いている。けれども聴いて思い浮かぶのは、いつだって夏の光景。
「Nostalgia」 →Pia-no-jaC←
初めて聴いたのがいつだったか、何をしていたときなのかも覚えていない。しかし鮮烈に覚えている。そのとき思い浮かんだ映像を。
図書室で本を読む、高校生らしき眼鏡の少年。そこへもう一人の少年が、興奮した様子で駆け込んでくる。二人は連れ立って外へ出る。青い青い夏空に、白く輝く飛行船。二人はそれぞれ自転車に跨がり飛行船を追いかける。日差しに光る木々の下を。照り返すアスファルトの上を。汗を散らして楽しそうに嬉しそうに、風を起こして駆ける。やがて町を見下ろす公園で二人は行き止まり。二人の頭上を、そして遥か先を飛行船は飛んでいく。まるで空を泳ぐ白い鯨のように悠々と。二人は晴れやかな顔で飛行船を見送る。なんてことのない、夏のある光景。
このイメージは「Nostalgia」を聴くたびに思い起こされる。→Pia-no-jaC←といえば軽快で激しい曲が売りだと思っていたのが、この一曲で大きく覆された。微炭酸の泡が弾けるような、爽やかで切なくも心地よい郷愁。真冬に聴いても私の心はその一時だけ夏に引き戻される。
真っ白な飛行船は、実際に私が見たものだ。日光を照り返しながら空にぽつんと浮かんだその姿に、何故かうっすら恐怖を覚えた。何のロゴも入っていない真っ白な飛行船を見たことがなかったから、異質なものに思えたのだろう。
その飛行船はゆっくり進んでいるようにも、空中に静止しているようにも見えた。私はそれを見て、「空泳ぐ鯨」というイメージをした。「Nostalgia」を聴いて描いた光景は、確かに私の郷愁だった。