スイス プチ・パレ美術館に学ぶ・前半戦
“20世紀絵画をもっと知りたい!” スイッチを押してもらった私は、
<自然と人のダイアローグ展> → 次に、前回投稿した
<ルートヴィヒ美術館展>に行ってきました。
そして「セザンヌに影響を受けた画家たちや、【キュビスム】初期の作品がもっと見たい!」と、次に選んだのが
<スイス プチ・パレ美術館展 〜印象派からエコール・ド・パリまで〜>。
最初は「うーーーん、【印象派】かぁ…」と思っていたのですが、公式HPに
「19世紀後半から20世紀初頭のパリでは、印象派、新印象派、ナビ派、フォーヴィスム、キュビスム、エコール・ド・パリという新しい絵画の動向が次々と現れました」と書かれています。
おっ!もしかしたら、今 一番知りたい時代のことを体感できるかも知れない!と行ってみることにしたのです。
いやぁ、良かったです。時代の流れを体感できて大変勉強になりました。
美術史の流れに沿った丁寧な解説、それぞれの画派に明確に分けられた展示が、初心者の私にはとてもわかりやすいのです。
セザンヌから【キュビスム】初期の作品をじっくり観ることはもちろんですが、19世紀後半から20世紀初頭に現れた新しい絵画の動向をしっかり感じる!
ことを目標にして、じっくり鑑賞してきました。
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第1章【印象派】からスタートです。
トップバッターは、アンリ・ファンタン=ラトゥール⁈。
ラトゥール と【印象派】が全く結び付いていなかったのですが、解説によると
▷ ルーヴル美術館で古典の模写に励み、
▷ マネの作品に感銘を受け、
▷ のちに【印象派】と呼ばれる画家たちと親交を結び彼らの野心に共鳴した
のだそうです。
自宅にあった資料にもラトゥールは【ロマン主義】【印象派】どちらとも密接な関係がある画家として紹介されていました。
そうだとしても、ラトゥールにトップバッターを託すとは なかなか素敵な展開が予想できます。
ヴァーグナー作曲『タンホイザー』の情感を絵画に映し出そうとした本作品は、精霊たちが彷徨っているような冷気漂う森の一場面が描かれています。
中央女性の薄ピンクの衣装、女性たちの赤色のドレスそしてボルドーの布…とにかく色が美しい✨(画像ではイマイチ伝わりません)。
私はスタートから一気に幻想的な世界に連れていかれました。
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【印象派】からもう一人、ギュスターヴ・カイユボット。
作品のキャプションに、“カイユボットは、レオン・ボナに師事していた” とあります。知っている画家の名前を発見するとワクワクするのです。
ボナといえば、国立西洋美術館の常設展に飾られているこちらの一枚、上品なご婦人を思い出します。
暗い背景の前に座る全身 黒尽くめのご婦人は、微笑みの加減、袖口のたくし上げ具合、そして指先まで気品に溢れています。
レオン・ボナ作品はこの一枚しか知らないのですが、このパヌーズ子爵夫人の肖像画の前で 何度立ち止まってため息をついたことか。
今回調べてみると、ボナはエコール・デ・ボザール(パリ国立高等美術学校)の教授から学長にまでなっている人物なのですね。教え子として挙げられる画家も多く、カイユボットの他にも、ジョルジュ・ブラック、ラウル・デュフィ、ロートレックと。ふむふむ。
おっと。今回はカイユボットの作品について書いているのでした(汗)。
カイユボットは、
▷ 自ら印象派展に参加しながら、仲間たちの作品を購入することで経済的・精神的に【印象派】を支援した
▷ マネの『オランピア』を寄贈しリュクサンブール美術館に展示することに成功した
▷ 自らの【印象派】コレクションを国家に遺贈した
ことで知られています。
なるほど。【印象派】にはなくてならない存在なのですね。
さて、今回の出展作品がこちら。
あら、素敵ですね。
作品に近づいてみると、“筆遣い” を丁寧に使い分けているのがわかります。
そうそう、こういう時は画像をモノクロームで見るとわかりやすいのです(ルノワール作品で学びました!)。
子どもの顔は、とても小さく繊細かなタッチ、ドレスはちょっと荒々しく筆を運んでいます。壁紙、布地は少し大きく柔らかに筆を乗せているようです。
展示会場で 少し離れて作品を観たとき、子どもの顔だけくっきり はっきり目に飛び込んでくるように感じたのは、こんな秘密があったのですね。
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第2章は【新印象派】です。
オスカー・ゲーズ氏のコレクションから成るスイス プチ・パレ美術館。スーラやシニャックといった有名どころは少ないのかも知れませんが、ゲーズ氏が興味を持っていた【新印象派】作品の豊富さは、さすが!。
第2章、展示室に点描の作品が広がっています。絵画とは何?、何が正解なの?、と わからなくなってしまう世界です。
まずはこちら。
展示室で ちょっと異色な静物画に目を引かれました。
アシール・ロージェさん。はじめまして。
展示されている【新印象派】の画家たち=(私がかろうじて名前だけ聞いたことがある)ピエ、クロス、リュスとは少し世界観が違うような気がします。
うまく言えないのですが。。。この作品は、眼の中で小さな色の点が反応を起こすのではなく、静かに、確実に色が届いてくる…というのでしょうか。少しおさえた色合いの花が くっきりと目に焼き付くような作品です。
ロージェの他の作品を見てみます。
おーーーっ!。
異次元にワープしたようなこの空気観は、スーラの描く世界にちょっと似ています。
ただ、スーラ作品を観たときに私の眼の中に起こる反応が少ないような気がします。もしかしたらスーラより使用する色の種類・数を抑えているのでしょうか。。。
今度、別の作品についても調べてみたくなりました。
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テオ・ファン・レイセルベルへさん。
<自然と人のダイアローグ展>で あなたのことを知りました。
月の光、水面に反射した月明かりの揺らめき、街の灯りの競演が美しく、とても印象に残っています。
今回の展示作品はこちら。
確かに手法は点描なのですが、とても生き生きしています(←表現がうまくないことをお許し下さい)。
夫人や子どもたちの表情、ドレスやテーブルクロスの質感や髪の光沢まで、点描であることを忘れてしまいそうな伸びやかさがあるのです。
こちらをじっと見つめる女の子と目があったとき「私を甘く見ないでよ!」と言われました。
きっと、レイセルベルへ=他国(ベルギー)で点描を取り入れた大勢の画家のうちの一人…と軽く思っていたことを、見透かされたのですね。
とんでもない思い違いをしていました。レイセルベルへは【新印象派】において重要な役割を果たしているお方のようです。今度資料を読んで勉強させていただきます。
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第3章は【ナビ派とポン=タヴァン派】。
モーリス・ドニ作品の解説に、“フラ・アンジェリコに惹かれてキリスト教絵画に関心を持つようになった” という一文を発見!。おっ、気が合うかも(笑)。
ということで今回はモーリス・ドニに注目してみました。
まずはこちら。
ドニの奥さま・マルトと、1901年に生まれた三女アンヌ=マリーを描いた作品。
輪郭線や影にミントっぽい緑色を使っている(画像ではあまり伝わりません)ことが原因なのでしょうか。とても穏やかな印象。題名 “母子像” と相まってちょっと神聖な雰囲気がしています。
そういえば国立西洋美術館の常設展でこちらのドニ作品を観たときも…。
淡い色の輪郭線で描かれた人物は、窓辺から差し込む穏やかで温かな光を受け、性別や年齢といった俗性とはかけ離れた存在のように思えました。
フラ・アンジェリコの宗教画に惹かれたドニ…。ふむふむ。
今回展示されている別のドニ作品がこちら。
ドニはブルターニュ地方の海岸近くに別荘を購入し、人々が集う海辺の風景を多く描いているそうです。本作の解説文に、
“自然の光景を女性的なイメージの連想と結びつけている” とありました。
なるほど。肌に映る黄色の光が優しいですね。
そう言えばドニが描いた海水浴場の作品を、埼玉県立近代美術館のコレクション展で観たことがあります。
この作品の解説を読むと、こちらも別荘近くの同じ海岸を描いているそうです。印象が違いますねぇ。もしかしたら、こちらは “男性的なイメージの連想と結びつけている” のかも…と新たな発見に嬉しくなりました。
さらに調べていると、国立西洋美術館も海水浴場を描いたドニ作品を所蔵していました。
あら。今回の展示作品と並べて観たいですね。
こちらは孫など家族をモデルにしているそうで、全員の表情まで読み取れる構図になっています。
自然の光景をどう結びつけているのか、と聞かれたら、“とても積極的な女性的のイメージ” かしら(笑)。
緑色の波のラインや浅瀬の水色が全体を覆う模様となって、今回の展示作品より装飾性が高いように感じました。
国立西洋美術館の常設展には何度も頻繁に足を運んでいるのですが、この作品、観たことない!。ということは、最近数年間は展示されていないのかも…。
いつか会える日を楽しみにしています。
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うわーっ。
<スイス プチ・パレ美術館展>は一回の投稿で ギュッとまとめてようと思ったのですが、また長くなってしまいそうです。
第4章 【新印象派】から【フォービスム】まで
第5章 【フォーヴィスム】から【キュビスム】まで
第6章 【ポスト印象派】と【エコール・ド・パリ】
は、後半戦に続く、とさせていただきます。
<終わり>