画壇の明星(20)・作品タイトルと来歴
古本屋さんで見つけた1951-1954年の月刊誌『国際文化画報』。
特集記事【画壇の明星】で毎月一人ずつピックアップされる世界の巨匠たちは、70年前の日本でどのように紹介されているのでしょうか。
【ルーヴル博物館 案内】という特集記事も始まっているので 楽しみが倍増しました。
今回は1953年11月号について投稿します。
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まず今月の注目記事は[秋の美術 1953年版]。
日本美術院展、二科展、行動展、青竜社展の作品が紹介されています。
1953年の日本では どんな絵画作品が好まれ、そして評価されていたのか。。。という目で見ると、面白いです。
右)奥村土牛氏はお名前を存じ上げております。『聖牛』という題名にふさわしい 清らかな体と眼差しを持った牛たちが描かれています。
左)二科賞を取ったという西村千太郎氏『私達は生きていく』面白いですね。社会風刺も交えながら、覚悟を持って強く生きねばならない人間たちが描かれています。2014年には名古屋画廊で西村千太郎氏 没後20年の個展が開かれたそうです。
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特集は次のページにも続いています。
川端龍子氏、東郷青児氏と名前が知れた画家の作品もあります。こちらのページがカラーでないのが残念。
北川民治氏、向井潤吉氏・・・私が知らなかった画家の名前をネットで検索していたら、あっという間に数時間経っていました(汗。
『ラ・ノスタルジック』はシュールですねぇ。砂漠の休憩所で、美しい女性が自身の左脚(←なんとラクダの脚!)を高く上げて疲れを癒しているのでしょうか。
「若い頃は何マイル歩いても平気だったのに・・・」
「かつて完全な人間だった頃は、もっと白くて美しい足だったのに・・・」
などと昔を懐かしんでいるのでしょうか。
これを描いた藤野一友氏。お名前を見たことがあるような気がして調べていたら、ありました!。
藤野一友氏と奥様(岡上淑子氏)の回顧展が2022年に福岡市美術館で開催されていました。チラシを見たような気がします。
お二人の【シュルレアリスム】の世界観、いいですねぇ、素敵✨。
三島由紀夫もお気に入りだったという藤野一友氏・・・。
『聖アントワーヌの誘惑』に『ルクレチア』といった古典の主題も面白そうです。藤野一友さん・・・要チェックですね!。
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次は、第4回目を迎えた特集[ルーヴル博物館案内 ④]。
今回は二つの作品が掲載されています。
まずは右の作品、ドミニク・アングルの作品『泉』から。
1953年の記事では、作品名を『春』としています。
『THE SPRING』を春と訳していたのですね。
西洋絵画において かつてはタイトルがなかったのでありまして、後世の人がつけたタイトルはもちろん、たとえ作者がつけたタイトルがあってもそれは原語。日本語の作品名は後から翻訳してつけたものです。したがって時代とともに変わり、また微妙に表現の違う場合もあります。
現在はオルセー美術館に展示されているこの作品、2019年実物を観たときの「フランス語(原語)」タイトルは「La Source」となっていました。
1953年に「英語」の翻訳タイトルが「The Spring」=>そして日本語の題名を「春」と訳したのは仕方ないのかもしれません。
描かれた女性は水源や “泉” の擬人像とされているので、やはり『泉』がいいですね。
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そして記事の左ページにあるのはバルトロメ・エステバン・ムリーリョの『ベネラブレスの無原罪の御宿り』。
『無原罪の御宿り』などと言う日本人に馴染みのない作品名になるのは、もっともっと後のことなのでしょう。それにしても当時この『処女の汚れなき受胎』という題名を見た日本人は何のことだろう?と不思議に思ったのではないかしら。
と。。。あれっ?
ルーヴル美術館にムリーリョのこんな “無原罪の御宿り” は無かったような気がします・・・私が見逃したのかしら?と思って調べてみました。
実はこの作品、1941年にルーヴル美術館からプラド美術館に所蔵元が変更になっています。
1678年頃 ムリーリョはこの作品をスペインのベネラブレス病院(←作品タイトルの由来)の聖職代表者に委嘱し → その後、病院内の礼拝堂に寄贈されたそうです。
しかし1813年フランスに略奪され、持ち去られてしまいます(涙)。それでルーヴル美術館が一時期 所有していたのですね。
その後 20世紀に入り、フランスではムリーリョの作品は時代遅れと見做されていた(あらま!)ため、1941年スペイン・フランコ政権に返還されたそうです。
ふーーーむ。いろいろなことを経験してきたこの作品ですが、“これぞムリーリョ!” という素敵な✨作品ではないでしょうか。ちょっと画像鑑賞してみましょう。
“無原罪の御宿り” とは、キリストの母である聖母マリア自身も 汚れなき存在としてこの世に生を受けたとするカトリック独自の教えです。
青衣をまとって月の上に立つ幼い(将来 受胎告知を受けることになる)マリアは美しく気品に溢れています。彼女を見守るケルビムたちの何とも可愛らしいこと。天から舞い降りたような、また天に昇っていくような構図を見ていると、私まで神聖な気持ちになるから不思議です。ムリーリョの宗教画からはいつも
「清らかな心でいなさい!」
と天の声が聞こえてくるのです。
実は実はこの作品。
スペインの返還要求にフランス政府は無償で応じたわけではなかったのです。交換作品として以下の二つがスペインからフランスに渡されたそうですよ!
なんとも、何とも。
絵画作品の来歴も非常に興味深いですね。今回の記事で、いろいろ勉強させてもらいました。
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さていよいよ【画壇の明星】です。
今回は、ディーン・コーンウエル DEAN CORNWELL(1892-1960年)です。
強烈な色使い、原色がぶつかり合って目がチカチカするーーっと思っていたら、“初めてのシネマスコープ方式” 採用の映画であることを「色彩」で表現しているのかも知れません。
映画タイトルの『THE ROBE』は、イエス・キリストが磔になる直前まで身につけていたローブ(聖衣)のこと。そのローブをめぐる物語を主演リチャード・バートン、そしてジーン・シモンズ(←かろうじてお名前を存じ上げています)が演じている歴史映画は1953年にアメリカで公開されています。
さて、これらの絵を描いたディーン・コーンウェル氏は、壁画を描いた画家でもあるのですがイラストレーターとして名を馳せたお方らしいです。
あら、素敵✨です。
パール・バック、ヘミングウェイそしてサマセット・モームなどの作家の挿絵を描いているというのですから、必見ですね。
ディーン・コーンウェル氏・・・。手帳にお名前をメモしました。
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今回 取り上げた『国際文化画報』(1953年11月号)は、「もっと知りたい!もっともっと知りたい!!」という気持ちを抱かせる、アートFULLな号でした。
<終わり>
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[追記]
1953年12月号【ルーヴル博物館案内】④ついて、翌12月号の編集後記にこんな記述がありました。
アングルの『The Spring』を『春』と訳していたことに関して、当時の読者の方からご指摘があったようです。素晴らしい!
そしてすぐに「手落ち」と認めさらなる指摘も大歓迎!とする編集者もあっぱれなのです。