紫陽花とカーニバル 〜ヴェネツィア〜
医学博士であり、元名古屋ボストン美術館・館長という経歴を持つ馬場駿吉先生が、滞在したヴェネツィアで詠んだ俳句・100句(イタリア語訳も併記)を収録した本、『海馬の夢』。
前回、気になった句をいくつかご紹介しました。
とても素敵な装いの本に綴られた俳句が、私を一気にヴェネツィアに連れて行ってくれたのです。
しかし。ヴェネツィアどころかイタリアにさえ行ったことがない私。
「ヴェネツィアは、カナレットが描いた通りの街だったよー」
と以前友人が語っていたのを思い出したので、行くかどうか悩んでいた美術展
<カナレットとヴェネツィアの輝き展>(SOMPO美術館)に行ってきました。
Amazonプライムで、映画『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』も観ました。
この2週間は「ヴェネツィア・Week」です!。
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そもそもヴェネツィアは、5世紀頃に部族間の争いから逃れたヴェネト人が干潟(ラグーナ)の沖へ逃れたことに始まるそうです。人々は湿地帯に無数の木杭を打ち込み、石を積み上げて地盤を造り、そこに住み着いたのですね。
その後、アドリア海と東地中海の貿易によって繁栄したヴェネツィアは、富や権力を欲しいままにします。歴史上最も長い1000年続いた水上都市は、「アドリア海の女王」と呼ばれる発展を遂げたのですね。
大きな魚のような形をしたヴェネツィア本島。お魚の中央をぐねっと湾曲して流れるのが「ガナル・グランデ(大運河)」、全長が3キロにも及ぶそうです。そこから広がる小さな運河は150を超え、400に及ぶ橋がかけられているのだとか。迷路のような路地には車はもちろんバイクも乗り入れ禁止のため、移動手段は、現在でも徒歩か船、およびゴンドラ(手漕ぎボート)だそうです!まさに水の都。
世界遺産に登録(1987年)された美しいヴェネツィアに魅せられた馬場先生が詠んだ俳句を、今回はもう少し深掘りしたいと思います。
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【水の都】
「カナル・グランデ」から広がる運河が、まるで毛細血管のように広がっている都市・ヴェネツィア。かつて海上貿易の中心地として繁栄した水の都・ヴェネツィアの情景が目に浮かぶのがこちらの句。
温い、という言葉は、悪い意味にも使われますが、ここではどんな意味が込められているのかしら?俳句のイタリア語譯から探ってみましょう。
◯ Le case come vino dolce a Venezia, Più mite l’aria.
直訳)ベニスの家々は甘いワインのようで、空気は穏やかだ。
「温い」とは、”冷たい” の対義語として “マイルド・穏やか” という意味で使われているのですね。
生活の一部となっている「水」、ヴェネツィアの家々に馴染んだ「水」の温かさとワインの芳醇な香りに、五感が刺激されるような句です。
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[紫陽花]
梅雨の時期に咲く紫陽花は、ヨーロッパでも観賞用として広く栽培されているそうです。
大好きな花なのですが、水揚げが悪くて自宅で鑑賞できるのは短期間。すぐに元気がなくなってしまいます。
しかし日本では、池一面に紫陽花の花だけを浮かべて楽しむお祭りもあるように、水中に浮かべても比較的長持ちするのだそうです。また萎れてしてしまった場合は、花全体を水に沈めたらガクからも水を吸収して再び元気になるそうです(←知りませんでした!)。
[ヴェネツィア]
潟(=ラグーン)の上に無数の木を打ち込み、そこに石やコンクリートを流し込むことで何とか成り立っている水上都市。
また、これまで何度も洪水に見舞われ、近年は水没の危機に瀕しているヴェネツィア。
水に恩恵を受けながらも、水によって危うい存在となっているヴェネツィア。
馬場先生は、そんなヴェネツィアを紫陽花に例えたのですね。
危ういからこそ美しく愛おしい都市・ヴェネツィアで力強く生きる人々は、水と共にこれまでも、そしてこれからも歴史を刻んでいくのです。
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【カーニバル】
ヴェネツィアのカーニバルは、毎年1月下旬〜3月初めに二週間行われる世界三大カーニバルの一つ(他の二つは、ブラジルの「リオのカーニバル」とスイスの「バーゼルカーニバル」)。
ヴェネツィア・カーニバルは、
仮面をつけて仮装することで貴族にも平民にも何者にもなれる!・・・平等。
地元の人も国外からの旅行者も誰でも参加できる!・・・自由。
古い建物が並ぶヴェネツィアは現在も車もバイクも乗り入れ禁止!・・・歴史的都市。
まさにどの時代のどこにいるのか、そして自分が誰なのかもわからなくなる・・・こんな体験はヴェネツィア・カーニバルにしかできないのです。
カーニバルに備えるヴェネツィアの美しい街並みの映像がこちら。美しい✨。
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ヴェネツィア・カーニバルの最終日を飾るのが盛大な花火の打ち上げ。
これでカーニバルが終わってしまう・・・と、
東西交易の中心地として栄華を極めた時代は過ぎ去ってしまった・・・と。
美しい最後の花火が消えてしまっても、まだ暗い夜空にその余韻を探してしまうのは馬場先生だけではないでしょう。
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ヴェネツィアの街を張り巡る大小の運河は、美しいのですが一方で環境汚染、そして感染症の温床になってしまいます。栄華を極めたヴェネツィアは、これまで何度も感染症の蔓延に苦しめられてきました。
カーニバルの仮面や変装はそんな悲劇を覆い隠すことができるでしょうか。立ち直るために生まれ変わりたい!という願いを叶えてくれるでしょうか。
ヴェネツィア・カーニバルにはどこか謎めいた、妖しいそして物悲しいイメージがあるのかも知れません。
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実は、【芸術】に触れた俳句をご紹介したかったのですが、記事が長くなりそうです。。。
なので次回、芸術都市・ヴェネツィアの俳句について投稿させてください。
<つづく>
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