戒めの言葉集 『悪魔の辞典』
古本屋さんで美術本を探しているとき、その題名に惹かれて手にした『悪魔の辞典』。
ちょっと茶色くなったケースに入った 怪しげで魅力的な薄い本は、昭和39年に翻訳・発行されています。シンプルな装丁がたまらなく魅力的!
58年前に300円で販売していた辞典を、私も300円で購入しました。
アメリカのジャーナリストであり短編小説家のアンブローズ・ビアス(1842年-消息不明)が1881年サンフランシスコの週刊誌に最初に発表し、1911年に書籍化された『悪魔の辞典』。
ビアスが選んだ 約1,000個の見出し語と、彼が新たに「再定義」した説明文が淡々と掲載されている辞典。これまで筒井康隆氏をはじめ複数の人によって翻訳されていますが、昭和39年西川正身氏によって翻訳された本書が一番古いかも知れませんね。
「A」から始まる単語を見ていくと、
権力者を前にして取る正しい姿勢が「卑屈」であり、自己を正当化しようとするときに他人を「責める」もの。。。いやぁ、なかなかです。
物事を捉える角度が大変歪んでいるのですが、実はそうなのかも…と唸らされる表現が多々あります。
読み進めていくと、体の中の「どこか」にある「何かが」蠢き始めました。重くて嫌な臭いを発しながら…。
自分の中に天使(善人)と悪魔(悪人)がいるならば、天使を装っている今の私の中には、間違いなく悪魔がいるのです。
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小学生の私は、正義感が強く 間違ったことが大嫌い。掃除をサボっている男子や、嘘をついている女子を見つけると皆の前ですぐに指摘。それでも態度を改めないようであれば すぐに先生に言い付ける、そんな嫌な子供でした。
知能指数が高く 勉強も運動もこなし、この世は私のためにある!と真剣に信じていた、そんなイタい子供でした。
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先生方のお気に入り=真面目な優等生だった姉(3歳年上)が卒業した中学に入学した私は、彼女と同じように見られるのがとても嫌でした。
平たく言うと … 反抗期がやってきたのですね。
“優等生” と正反対の “ワル” に憧れて、不良と呼ばれる先輩をカッコいいと思っていました。
目立ちたがり屋の天邪鬼、怖いもの知らずの毒舌家を気取って「なんなら悪魔と手を組もうじゃないか!」とイキっていたのですねぇ。
でも、とっても無理をしてました。
部活をサボって喫茶店に居るところを見つかったときも「一生懸命指導してくれた先生を悲しませた」ことに胸が痛みました。
悪魔(悪人)を装っていた当時は、自分の中に天使(善人)がいることを感じて情けなく思ったものです。
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就職してから、誰かの信頼と引き換えにお給料をいただくようになり、社会人としての自覚が生まれ、少し大人になりました。
後輩ができ、リーダー職に就いてからは、周囲の手本にならなければ!と強く思い始めます。「仕事に対する姿勢」だけでなく「自分の考え方」や「発する言葉」まで、すべてにおいて “真っ直ぐ前を向いて突き進む” ことで、誰に見られても恥ずべきことのない「生き様」を見せていこう!とイキっていました。
人の見本になれるような人間ではないのに…。
ちっとも真っ直ぐな人間ではないのに…。
そんなこと、自分が一番よくわかっていました。
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現在は力を抜いて 自然体で生活しているつもりです、が その名残はあります。
嫌なこと、怠惰なこと、道に外れる言葉はできるだけ慎み、
「べき」論、キレイごと、前に進める言葉だけを口にするようにしています。
と偉そうに言っていますが実は、嫌な言葉を口に出したら 悪魔(悪)が一気に顔を出し、自分を制御できなくなることが恐ろしいのだと思います。
天使(善人)を装えば装うほど、自分の中の悪魔(悪)の存在に怯えてしまうものなのですね。
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そんな私が手にした『悪魔の辞典』。
ビアスが私に語りかけます。
「偽善者よ!お前の本心を見せてやろう!」
ビアスが解釈した言葉の定義は、私が閉じ込めてきた心の中の悪魔が話している言葉のようです。
一般に理解されている言葉の定義と、ビアスの定義を並べてみました。
胸の粘膜が何かに溶かされていくような痛みを感じます。ぬるくてネバネバした液体がドロドロ流れ出てしまいそうです。
ビアスはこの辞典について、
と語っているそうです。
「分別」「機知」「品のある言葉」を選択して「賢明な」人になりたい!と思っている、まさに私に向けられた辞典なのですね。
今の私が新たな見出し語を作るならばこうなるでしょうか。
いえいえ、いやいや、ダメダメ。
こんなことで フラついたり負けたりしてはいけません!
確かに、自分の嫌な部分をキレイごとで覆い隠して見ないようにするのは良くないですね。しかし、前向きな言葉や思考で自分を真っ直ぐ引っ張っていく努力は続けていきますからね、ビアス様!
<終わり>
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