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画壇の明星(15)・ターナーと英国の光

古本屋さんで見つけた1951-1954年の月刊誌『国際文化画報』。
特集記事【画壇の明星】で毎月一人ずつピックアップされる世界の巨匠たちは、70年前の日本でどのように紹介されているのでしょうか。

2023年は7月になってしまいましたが、今回は1953年6月号について投稿します。

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表紙は故エリザベス女王。
戴冠式(1953年6月2日)を控え、即位後初めて撮影された公式の肖像写真はお美しい!光り輝いています✨。

すでに女王の風格があります

若く美しく、そして気品高い女王は英国民の敬愛の的。ヴィクトリア女王の輝かしい時代をもう一度再現したい!と、1953年の英国民は「女王の治下に英国は栄える」という夢を描いて沸いていたのですね。

パレードの写真は、1937年5月の故ジョージ6世の戴冠式の様子

現代の英国、英国王室には光だけではない影の部分=さまざまな問題も抱えていると思うのですが、故エリザベス女王のその後70年間のご苦労とご活躍を想って、ご冥福を祈るばかりです。

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さて今月号。1ページ目に絵画作品が掲載されていました。

1953年6月号の1ページに掲載『白馬と騎士』筆者不明

旧松方コレクション⁈ とあります。こんな作品は初めてみました。

このほど東京・ブリヂストン美術館で開催された旧松方コレクション特別展は、未発表の作品をふくめて、文化界にセンセーションを起こした。__中略__
ここに掲げた「白馬と騎士」は、17-18世紀ごろのイタリアの絵画と推定されているが、筆者は不詳で、コレクションの中の研究題目の一つであるという。

『国際文化画報』の記事より

旧松方コレクション = かつて松方幸次郎氏が海外で買い付け所蔵していた作品。
きっと松方氏は画商から「有名な画家の◯◯◯の作品です」とお薦めされたのでしょう。
強い光によって陰影をつけ 暗闇の中に対象物を浮かび上がらせる(キアロスクーロ)技法は、もしかしてカラヴァッジョの影響を受けたカラヴァジェスキ(Caravageschi)と呼ばれる画家の作品でしょうか?
それとも、まさかカラヴァッジョ本人⁈。
と素人の私でも想像してしまうのですが、現在に至るまで一度もお目にかかったことがない イコール 有名な人の作品ではなかった、ということなのか。
カンヴァスのサイズは記載されていないのですが、かなり迫力ありそうです。
今は何処で眠っているのやら。かつて作者だと思われていた画家の名前(◯◯◯)や、研究の結果など知りたいものです。
この作品に光が当てられることはないのでしょうか。

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さて本題の【画壇の明星】。今回はターナーです。
ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(1775-1851年)はイギリスの風景画家。2023年、我が家の本棚で彼について調べると、

ターナーはイギリスの風景画の歴史上、最も独創的で想像力豊かな画家である

 『art  世界の美術』より

とあります。
しかし、【画壇の明星】でピックアップされている彼の若い頃の「作品」、そして1953年の雑誌「画像」では、ターナーの素晴らしさを伝えることはできていないように感じます。

『国際文化画報』【画壇の明星】より

そして50年前の記事には、ちょっと気になる文章もありました。

ターナーには絵画的燃焼より、やはり愚直な常識がめだって濃厚です。そういう意味では、フランス印象派には、ターナーのフランス印象派への影響を拒絶する人々がいました。例えば、ルノアールもその一人です。筆者もコナスターブルの画績に対して、明らかに数段劣るものと考えています。
ターターは1851年に高齢で死にました。

【画壇の明星】の解説より

「いやいや」
と突っ込みたくなるのは、私が2023年を生き、後世のターナーに対する評価を知っているからなのでしょう。
しかし「愚直な常識」「数段劣る」とは なんとも的外れな・・・。
もし記者が、今回掲載のためにチョイスされた「作品」、しかも掲載された「画像」だけをみてターナーのことをこのように語っているのだとしたら、「ちょっとお待ちくださいませ」と異議を申し立てます。
確かに 同時代の英国に生きた画家コンスタブルは、卓越した画力と構成力によって自然の風景を描き出す画家であるといわれています。
しかし、ターナーを同じ観点から評価することはできません。

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実は私、2019年10月にパリのリュクサンブール美術館で
<イギリス絵画の黄金時代:レイノルズからターナーまで
という美術展を観てきたのです。

2019年10月 リュクサンブール美術館にて

テート・ブリテンが所蔵する18世紀後半から19世紀前半のイギリス絵画を展示していたのですが、当時はまだまだ絵画鑑賞に目覚めたばかり。
ルネサンス絵画、そしてその後のフランスを中心とした絵画に興味があり、「イギリスかぁ・・・まだよくわからないんだよねー」と軽く流してしまったのです^^;。もったいない。
ただ、会場にターナーが描いたスケッチが並んでいたのははっきりと覚えています。ほとんどがサイズの小さな作品だったのですが、仄暗い会場で “光” を放っていたのを覚えています。
どんな文脈で展示されていたのか・・・今度資料を読み返してみることにします。

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と。バレてしまったかも知れませんが実は私、ターナーの “凄さ” についてうまく言語化することができておらず、偉そうに語れないのです。
いくつかの美術展でターナー作品に出会った時も、
光と色彩の効果や 空気感をどう描いていくかを追求した画家」
光と色と形が一体となって溶け込んでいるような作品」
とか、
「会場でターナー作品に出会うと “新しい時代の到来だ!” と全身が震える。まぶしくも 優しい光に包まれて涙ぐみそうになる」
と、漠然と自分の感情だけを書いています。

上)『ヴェネツィア、サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂の前廊から望む』1835年頃(メトロポリタン美術館展にて)
下)『ポリュぺモスをあざ笑うオデュッセウス』1829年(ロンドン・ナショナル・ギャラリー展にて)

具体的に何がどう “凄い” のかまだよく理解できていないのですね。
それでも。それでもターナーとは?と聞かれたら
「すべてを光に溶け込ませる画家」と答えます。

ここは 高階先生のお言葉を借りましょう。

多彩な活動の基本にあったのは光の表現に対する飽くことのない情熱である。彼は夕べの光、朝の光、月の光、嵐の最中に射す一条の日の光、海上の船の灯火の光、火災の火の光、蒸気機関の石炭の燃える光などのあらゆる種類の光に魅せられ、生涯にわたってそれらを風景の中に描き続けた

高階秀爾先生『西洋美術史』

ターナーが描いた あらゆる種類の光をもっともっと鑑賞して、彼の飽くことのない情熱を感じたい!ものです。

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そんなこんなで、私が楽しみにしている美術展が、
7月12日(水)から国立新美術館で開催される<テート美術館展 “”>。

テート美術館の所蔵作品から “” をテーマにした作品を厳選して約120点を展示するそうです。
副題は「ターナー、印象派から現代へ」。“” というテーマの展示会がターナーから始まっているのは納得です。

本展では、異なる時代、異なる地域で制作された約120点の作品を一堂に集め、各テーマの中で展示作品が相互に呼応するようなこれまでにない会場構成を行います。絵画、写真、彫刻、素描、キネティック・アート、インスタレーション、さらに映像等の多様な作品を通じ、様々なアーティストたちがどのように光の特性とその輝きに魅了されたのかを検証します。

<テート美術館展>公式HPより

英国が誇る国立テート美術館の “” の競演。
ターナーの “” が印象派へ、そして現代アートにどのように引き継がれ どんな展開を見せているのか、楽しみでなりません。

そういえば以前の投稿で、ターナーとコンスタブルが芸術後進国とみなされていた母国・英国に熱い思いを抱いていたことを書きました。
https://note.com/layusee/n/n6e85380800f4?magazine_key=mada16ac286af

世界各国を旅したターナーも、英国を出ることのなかったコンスタブルも、英国の光となって世界中の絵画ファンに希望を与えてくれているのです。

<終わり>

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