ふいに訪れるトップオブザワールド
三日前の日曜日の話。
朝からなんとなく食欲がなくて、なんとなく寝不足で、どうもエンジンがかからない。何か食べようという気になった15時半、街じゅうの「ランチ」は当然終わっている。
街のパン屋さんの一角のカフェスペースで、あたためてもらったホットドッグを食べていると、窓の向こうの人気コーヒーショップの店員さんたちが3人、小さな花束を持ってお店の外に出てきた。
雲ひとつない空と、ライトブルーのユニフォームが同じ色だぁとぼーっと眺める。
店員さんたちの雰囲気がとても楽しそうなので、そのまま見続けていると、ちいさなちいさな赤ちゃんを抱っこする女性と、旦那さまと思われる男性がその場に現れた。
一斉に拍手とお辞儀が交わされ、花束が渡る。
どちらのサイドも、とても幸せそう。
私のいるカフェでは、白ワインを飲む若い女性も手を止め、スーツ姿のサラリーマンもトレイを持ったまま立ち止まり、全員がその様子を見ていた。
自分たちのいる世界の外の出来事なのに、なにか惹かれるものがある。
そのタイミングで、カフェ内にある曲が流れ始めた。
Such a feeling's comin' over me
There is wonder in 'most every thing I see
Not a cloud in the sky, got the sun in my eyes
And I won't be surprised if it's a dream
ふと幸せな気持ちに包まれる
目の前の全ての出来事が魔法のよう
雲ひとつない空、太陽が眩しくて
夢ではないかと思ってしまう
懐かしい。何年も聴いていない。「今このとき」のサントラだ、と思った。夏の東京の空の下で繰り広げられている幸せな瞬間を曲にするとしたら、うん、これいいね。
寝不足でぼーっとしていた頭と心が微かに動く。
そしてあまりに有名なサビ。この部分は、目の前の夫婦の気持ちになって聴いていた。
I'm on the top of the world lookin' down on creation
And the only explanation I can find
Is the love that I've found ever since you've been around
Your love's put me at the top of the world
今の私は世界の誰よりも幸せだと思う
そこに理由があるとしたら
あなたと出会ってようやく見つけた愛
その愛が私を世界一幸せにしてくれた
言葉ではおそらく語れないであろう心の動きを、カーペンターズの優しい歌声に乗せて。生まれたばかりの我が子に...と勝手に(本当に勝手に)イメージを膨らませる。
いつも白いイアフォンを耳に入れて歩いている私だけれど、外の音は遮断したいと思うことの方が多い私だけれど、たまに外してみるのもいいかもしれない。久々に聴くカレン・カーペンターの声はやっぱり優しい。
たった一瞬の出来事。
鮮やかなブルーのユニフォームを着た店員さんたちは、笑顔でお辞儀をしながらお店の中に戻って行った。
私もホットドッグに戻り、『プリズン・ブック・クラブ』を開いた。15分ぐらい経ったところでふと見上げて窓の外に目をやると、カラフルなシャツの古田新太さんが歩いていらした。
本当にこの街にいるんだ…。
道行く人に話しかけられ、笑顔で一言、二言交わされていた。その一瞬にも生まれたと想像するちょっとした「幸福感」。
こういう一瞬一瞬で1日はできていく。