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【ドラマ】Netflix版「阿修羅のごとく」のこと 注:ネタバレあり
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新年明けてから、Netflixで、ドラマ「阿修羅のごとく」がリメイクされ、
配信されると知って、楽しみにしていた。
監督は、あの是枝裕和さん。キャストも、今をときめく俳優さんばかりだ。
向田邦子さんは、尊敬する作家の一人であり、著作もドラマも、
どれも好きな作品ばかり。
1979年にNHKの土曜ドラマで「阿修羅のごとく」が放映された時には、
毎週、始まる時間を楽しみに、いろんなことを考えながら、観ていた。
四姉妹を演じたのは、加藤治子さん、八千草薫さん、いしだあゆみさん、風吹ジュンさん。
2003年に映画化もされたが、これは2時間余りにまとめられていたこともあってか、さらりと可もなく不可もなく、だった印象だ。
舞台は観ていない。
今回のNetflix版については、事前に予備知識は入れずに観ることにした。
観始めて、まず感じたのは「違和感」だった。
家、家電製品、家の装飾品、何気なく目に触れる手編みのマフラーや、小物、すべてが当時のままに懐かしい。
ただ、そこで生活している人々が、演じているようにしか見えず、入り込めない。
今の映画やドラマで、いつも見ている顔ぶれだからそう感じてしまうのか。
竹沢家は、母親も四姉妹も強い人だ、という印象だったが、それは単純に気が強いということではなく、抑えた芯の強さや、奥ゆかしさみたいなものがあったと思う。それが感じられない。
四人それぞれの、表に出るものが強すぎて、落ち着かない。
四女・咲子を演じる広瀬すずさんが、意外に一番、昭和っぽいな、と感じたりはしたが、とにかく、取ってつけたような感覚が拭えなかった。
途中で観るのをやめてしまおうかな、と思ったくらいだ。
でも、観始めた以上は、最後まで観よう、そう思って進めていくうち、
母親が亡くなったあたりから、気持ちが変わった。
ぐんぐん引き込まれていった。
長女の夫は、早逝しており、三女、四女が未婚の段階では、竹沢家には父親以外、次女・巻子の夫しか男手がない。
巻子の夫・鷹男さんは、親族に何か問題が起こるたび、呼び出され、あちこちに行かされ、嫌がりもせずに親族のために奔走し、尽力している。
長女・綱子が不倫相手といて、障子にワインをぶちまける美しいシーン。
後日、不倫相手が一生懸命に障子を張り替えている姿が、微笑ましい。
綱子の見合いのシーン。席を立ち駆け出す綱子。
誰かを心底、好きになった時の気持ち。
能の映像も美しい。
結婚してからの三女・滝子と、夫・勝又のやりとりから感じる、勝又の人柄と、二人の独特の静かな空気感が心地よい。
綱子と巻子が、真面目なことなのに、顔を見合わせて、くつくつ笑いだす。
いかにも長女と次女らしい会話。二人が共有する思い。
一人カウンターで寿司を食べる父親と、寿司職人の会話から感じる、
父親の思い。
幼い頃から正反対の性格で、喧嘩ばかりの三女と四女。
ライバル。だけど、辛い思いはしてほしくない、大切な存在。
咲子が嫌な事件に巻き込まれそうになった時、妹を守ろうと前に立ちはだかって抗議する滝子の言葉には涙が止まらなかった。
時代背景など、どうでも良くなり、人物に引き込まれていた。
粛々と続いていく日常。
良いことばかりではない、紆余曲折がある毎日。
人が生きていく、ということ。
一つづつ、乗り越えて、深まる絆。諦めること。
人の世のあり方。
観終わって、今更ながら理解した。
一つ一つが、唯一無二の作品であって、比べてあれこれ言うものではない。
このリメイク作品は、昔を知り、懐かしむ人々に向けた作品ではなく、
今、生きる人々に向けた作品「阿修羅のごとく」なのだと。